高野秀行「アヘン王国潜入記」565冊目

本当のことほど面白いことはないね。事実より面白い小説はあるし、これが小説より奇なる事実かどうかは知らないけど、この本は最高に面白かった。 

だって東南アジアのどこかの国の一角に大きなケシ畑があったとしても、そこに自分が行って、違法なことを百も承知の上で、種まきから草取りから収穫まで手伝って、おまけに自分がアヘン中毒になって帰ってくるなんて。爆笑していいですか?(感動しつつ)

でもなんかものすごく共感もします。私も自分で行ってみたいほうだから。悪のなんとかを暴く、というより、そこにいて地元の普通の人として暮らすほど最高に面白い体験ってない、と私も知ってるから。

ああ…(ため息)…またどっか行きたいな…せめて国内…

川越宗一「熱源」564冊目

面白かった。すごい力作。アイヌの人たちが主役で時代は明治なんて、設定が斬新!と思いながら、三分の二くらいまで、まるきりフィクションだと思って読んでたのに、事実にもとづく小説だったなんて!という驚きも大きい。これ、「坂の上の雲」みたいに何回かに分けて、しっかり作りこんでドラマ化してほしい。

後から考えれば、そういえば南極探検隊に樺太の犬を連れて行った話は昔聞いたことがあったし、そもそもシベリアはロシアの流刑地だった。でも、ポーランド独立の祖となった人の兄弟が樺太で服役して、アイヌ文化を研究してアイヌと結婚していたこととか、アイヌが犬の係として南極探検隊にいたこととか、目からうろこが落ちるような「そうか!そうだったんだ!」が多すぎて、頭がくらくらしてきます。事実ほどすごいものはないですね、たまたま私が知らないだけで。市井の人の大冒険って、市井の私たちの胸の中のなにかを刺激しますね。それを著者は「熱源」と呼んだのか。

凍り付いた自然の中に、人々の中に、人々を駆り立てる「熱源」がある。「石光真清」の手記もすごかったけどこの本もすごい。リサーチや構成にどれほどの時間と手数がかかったか…。堂々の直木賞ですね。

数年前にユジノサハリンスクという、樺太(サハリン)南端の町に行ったら、がらんとして何もない、きれいな町でした。ロシアっぽさも日本っぽさもアイヌやギリヤークを思わせるものも何もない。そのつるんとした表面を掘り下げて掘り下げて、つながりを見つけていくのもまた「熱源」のなせるわざなんだろうな…。

 

レンタルなんもしない人「レンタルなんもしない人のなんもしなかった話」563冊目

どういう経緯か忘れたけど、この人のTwitterを半年くらい前からフォローしていて、彼の傍観者的な感じを面白がっています。

この本は彼のtweetを見てるのと近いけどちょっと違います。まとめて見られる。ちょいちょい、彼自身による補足が入る(←これTwitterではないので新鮮)。とか。

彼はあくまでも「自分はなんもできないから」という趣旨で活動してるのですが、あまりに新しすぎて、彼の活動を社会現象として分析したくなる気持ちもわかります。さまざまな依頼が引きも切らず(いや、間が空くことはあるみたいだけど)来るのも面白い。

「王様の耳はロバの耳~」みたいだな。自分が知ってる人には頼めないこと。誰かにそこにいてほしい、秘密を洩らさないでほしい、などなど。人に言えない話を聞くにはよほど傍観者に徹することができないと巻き込まれてしまう。レンタルさんは人と距離を保つのがうまいけど私なら2~3日で弱って倒れるかも。彼のサービスも不思議だけど彼という人がさらに不思議だ。

サービスを「1回1万円」にしてからのことはこの本にはまだ出てない。続編がもうすぐ出るみたいだから、その辺の変遷についても読んでみたいです。

小林エリカ「マダム・キュリーと朝食を」562冊目

ふむ、興味深い小説です。

理屈と史実とファンタジーを、猫と少女が別々に、軽やかに、飛び回る。重層的で、感覚的に理解しづらい人もいると思うけど、私はするっと入れました。

この間テレビで加藤登紀子とこの著者との脱・原発対談(「SWITH×Interview」)を見て、面白そうだなと思って読んでみたのですが、確かに、やわらかい表現の中に非常に強い反核の意思が詰まっています。ファンタジーなのに史実や化学についての記述が正確。こんなふうに、いわば学際的に、軽やかに難しいことを理解するのって、新鮮。そのやり方がとても面白い。とても、高度な少女マンガ的。

歴史をたどるのに、その時代は祖母が母を身ごもった頃で、この時代は自分が生まれたころで…と、母系家族を当てはめて考えるのです。社会に出ないで家にずっといる女性たちのような、地に足の着いた歴史認識なんですよね。小林エリカさんはきっと人の言うことを聞かない人なんだろう。自分で咀嚼してちゃんと理解するまで時間をかける人だと思う。(私もそうだ)

すごく好き!とか、私と合う!という感覚ではないんだけど、興味深い作家さんです。

この人の場合、大きな賞を取るために表現を大げさにしたり、感動を深める努力をしたり、しないほうがいい気がする。これからもずっと、誰かに評価されるためでなく、自分の中身が話したがっていることを書き続けてほしいです。うん。

 

浅生鴨「だから僕は、ググらない。~面白い!を生み出す妄想術」561冊目

この人のTwitterは本当に面白い。スコーン!と外してくる。で、笑わせる。

NHK広報の中の人だったときから、今に至るまで、常にどこかネジが外れたような、あえてネジをかっちり締めずに緩みを残そうとして、緩めすぎて外れかかってるような、予想外のつぶやきを見せてくれる人です。

この本はその人が、どうやったらどういうユニークなことを思いつくのか?と何度も何度も人に聞かれて、「じゃあ説明するけど」と書き起こしてくれた本。発想のヒントとして読んでもいいけど、まじめにこの本の通りにすることではこの人のような発想にはならないだろうな、という気もします。

そういえば私も若いころは、ぼんやりと公園に散歩に行って、勝手に人の犬に名前を付けたり、道行く人たちの生活を想像したり、なんてことを楽しんだものでした。いつからこんな、暇さえあればためになりそうな本を読んだり、勉強したりという、功利的な人間になったんだっけ?

大事なのはやっぱり、まったく暇な時間だな。そして休むばかりでなく、人がたくさんいるところでぼーっとするのって大事。

今は幸い時間がたくさんあるので、そういう時間をもっと持つようにしてみよう。

「世界一周女子旅BOOK」560冊目

思い立って世界一周ひとり旅に出た、20~30代の日本の女性10人が、自分の思い、自分の旅のいきさつやルートや出会ったものごと、などについて語りつくした本。

彼女たちの純粋な思いと、心を開いて出会った素晴らしい人々や風景にふれて、心が洗われるような本でした。

今の私にはもう、彼女たちのような鋭敏な神経もすばやい運動神経もないので、もうちょっと安全に振れた旅を自分で構築したほうがいいんだろうな。

大陸の端っこ。信じられないような世界の果て。たどりつくことだけを目指して行っても、そこで得られるものが必ずある。

得られたものをその後の仕事に生かすかどうかって、若いころは気になるだろうけど、究極的にはそれもどうでもいいことなんだ。生まれて死ぬまでの間に、魂が震える思いが何度かできたっていうことが、自分の人生の最大のピークになるのだ。

ピークが10代に経験できる人もいれば、70代の人もいる。

せっかくの一度の人生、ルートを決めた旅行って比較的リスクが少ないんだから、みんなあこがれの地に出かけてみてほしいなと思います。

私も、がんばる。

西川治「死ぬまでに絶対行きたい 世界一周 食の旅」559冊目

この本は良かった!写真家の写真集であるにもかかわらず、お料理写真は”美麗”というよりカジュアルなスナップ写真っぽいんだけど(それが自然でいい)、とにかく食べること、飲むことが本当に好きな著者が、世界中を楽しみながら食べ歩いているのが伝わってきてワクワクします。

見てるだけでお腹いっぱいになるような本。やっぱり美味しいものを食べて生きていくのが一番の贅沢だ。

世界一周旅行の参考書にはしないけど!