堤洋樹 編著「公共施設のしまいかた まちづくりのための自治体資産戦略」592冊目

諸般の事情で読むことになった本。

これは建築というより都市計画、それも公共施設を中心とした都市づくりについて書かれた本です。それってどんな都市計画よりも、どんな建設プロジェクトよりも大変で、最も大勢のステイクホルダーが関わる困難なプロジェクトだろうなと思います。行政の専門家、事務を行う人たち、一般市民、民間企業その他、建築や都市計画に関する知識レベルが0から100までの振れ幅があるでしょう。だからこの本も、専門知識のない人が読んでもわかるように懇切丁寧に書かれています。

しかも、本の後半に書かれている事例の中には、市民を巻き込むブレストに成功したのにもかかわらず、再建築プロジェクト自体はその後実践されたなかった例もあります。

私なんかは、一人の気持ちを気にしながら利害関係が対立している他の人の気持ちまでケアすることなんて無理…と思ってしまうほうなので、私がこのプロジェクトのリーダーじゃなくてよかったと心底思い、かつ、こういう仕事に携わっている人たちを尊敬してしまうのでした…。 

 

ケン・リュウ「生まれ変わり」591冊目

やっぱり面白かった。いくらでも新しいアイデアが出てくる。この人弁護士でソフトウェアデベロッパーだし、IQすごそうだなぁ。SFって、今発見されたばかりの新しい事実や技術の「その先」とか「もっと先」を好きなだけ想像してふくらませることができるから、ビジョナリーにとってはイマジネーションの楽園なんだろうな。法律も科学技術も良く知ってるし歴史も学んでる。ぼんやりとした想像じゃなく(例:僕たちはがんばってるけど政府はむにゃむにゃ…)、頭の中に社会システムと技術でしっかりとした世界が構築できる。

三体パートⅡも日本語訳が出たし、ますます新中国SFが楽しみだなぁ。

 

高野秀行「未来国家ブータン」590冊目

すごく面白かった。秘境好きの人はほぼ100%話が面白い…。それは自分と違うものを心底楽しめるからだよね。ブータンには10数年前、先代の国王の頃にツアーで行って、一生心に残る面白い目の覚めるような旅をしてきたのですが、自分で行くのに匹敵するほどの面白さでした。第一私はいわゆる観光地しか行ってない、ほとんどお酒を飲んでない、ラヤにも東部にも行ってない。(お坊さんばっかりが観客のブータンスタンダップコメディとかブータン唯一のディスコとか行ったけど)

そして、彼は秘境の面白さだけでなく、ブータンっていう国家のクレバーさにしっかり気づきました。確かに私がティンプーで出会った官僚候補の若者たちは、みんな優秀で気立ても良くて本当に有望だった。そして、国王を心から尊敬して敬愛してた。そういう「思い」のパワーは重大なのだ。

 あちこちに旅行していた去年までが、前世みたいに遠く感じられる今日このごろ。次に外国に行けたら、カジュアルに飛び回ってた頃と全然違う感慨がありそうだな。

未来国家ブータン (集英社文庫)

未来国家ブータン (集英社文庫)

  • 作者:高野 秀行
  • 発売日: 2016/06/23
  • メディア: 文庫
 

 

川上弘美「溺レる」589冊目

1990年代っぽい、バブル疲れしてそこから降りたくなった人たちが出てくる作品だなぁ、と、まず思った。地方競輪が舞台の佐藤正午の小説とかさ。 

この人の「センセイの鞄」という本を昔、女友達から読めと渡されたことがある。私がその主人公に似てるんですって。既婚の中年男に執着するうっとおしい女の話だと思った。その友達とはその後疎遠になったくらいで、彼女は私のことなど何一つ知らないし知ろうともしなかったんだなと思った。

しかしそのすぐ前に書かれたこの「溺レる」のほうは、ふしぎと共感できる部分がある。恋愛に不慣れな若いころは、なんとなく言い寄ってきた男とつきあい始めて、始めるとなんとなく離れがたくなったり、ずぶずぶとのめりこんだりするもんだ。そういう、まだ自分の軸を持たない大きい子供のような女の状態がなつかしいように思えてしまう。そう思うのは自分が年を取ったから、相手の中年男に近い気持ちで若い女を見るようになったからかも。

そして不思議に川上弘美村田沙耶香を思わせる。二人とも研究者が顕微鏡を覗くように相手や自分を見てるのが面白い。ミクロでもありマクロでもある乾いた視点。

あと、どうでもいいけど川上弘美って星野源にちょっと似てる。 

溺レる (文春文庫)

溺レる (文春文庫)

  • 作者:川上 弘美
  • 発売日: 2002/09/03
  • メディア: 文庫
 

 

ケン・リュウ編「折りたたみ北京」588冊目

テッド・チャン(「メッセージ」など)、劉 慈欣(「三体」)、ケン・リュウ(「紙の動物園」「母の記憶に」)と読み進めてきて、超一流の作家でもあるケン・リュウが自ら翻訳して英語版を売り出している新進気鋭の中国語作家のアンソロジーがあるなら、そりゃ読みたくなるじゃないですか。第一、タイトルが面白そう。実際この小説は北京の町が上流・中流・下層の3つの地域・人々に分かれていて、1日24時間を分け合って暮らしているという設定。それぞれの暮らす建物はきれいにくるまれて片付けられて、他の人々の目には触れないようになっている…なんて斬新な!

このアンソロジーに収録された珠玉の短編はどれも、最新の宇宙科学やコンピューターの知識だけでなく、数千年も続く中国文化、家族や友人への愛、善悪の深い洞察といった深みのある素晴らしい作品ばかりです。日本で人気の若いミステリー作家たちの作品が薄っぺらく思えてくるくらい。(日本では関係性の喪失が中心にある作品が多いので、人間関係が薄くなるのは当然とはいえ)

技術が発達しきって、地球人がほかの生命体の住む天体に行った「後」、他の生命体が地球に来て共に暮らすようになった「後」、を見越して書いているものがほとんどで、彼らの見越している時間軸の長さと深さに、かの国の歴史の長さや文化の深さを見せつけられてしまって、小さい島国の自分はまだ漂泊を続けているに過ぎないのかと愕然としてしまうのです。

あまりに佳作ぞろいだったので、次にまたこの作家たちと出会うときのために、作家とタイトルだけでもメモっておきます:


陳楸帆「鼠年」「麗江の魚」「沙嘴の花」
夏笳「百鬼夜行街」「童童の夏」「龍馬夜行」
馬伯庸「沈黙都市」
郝景芳「見えない惑星」「折りたたみ北京」
糖匪「コールガール」
程婧波「蛍火の墓」
劉慈欣「円」「神様の介護係」 

 

 

エリザベス・キューブラー・ロス「続死ぬ瞬間 死、それは成長の最終段階」587冊目

また借りてきたけど、この本はさまざまな宗教や文化における死について書かれた論文集でした。面白そうと思って借りたんだけど、思いのほか自分にはとっつきにくかったです。だいぶ読んだけどこれでキューブラー・ロスシリーズはいったん終わりかな…。

 

エリザベス・キューブラー・ロス「死ぬ瞬間~死とその過程について」586冊目

これが最初の、いちばん有名な世界的ベストセラーになった本。1969年の抄訳本ではなくその後完訳されたものです。

後で書かれた本と比べて圧倒的に医学書の色合いが強いです。キューブラー・ロスはまだ100%精神科の医師であってカウンセラーとかセラピスト、ましてや思想家のような様子はまったくありません。

欧米のちょっと昔の本には必ずホロコーストという恐ろしい出来事の話が出てくるし、この本は末期患者やその家族の生の声がたくさん収録されているので、気楽に読める部分など1ページもありません。

死の受容までの5段階について、おそらく一番詳しく書かれた本でもあります。名著だけど、5段階については先に答えを見てしまったような感じで、ほかの本で言及されるのをかなり見ているので、重いけれど私が一番読みたかった本ってわけじゃないなぁという印象もありました。