木村友祐「海猫ツリーハウス」605冊目

ものすごく可愛いフェルトの子ペンギンの表紙。これがホラーとか全員死ぬミステリーとかだったら怒ります。そうではなかったけど、この表紙の意味はなんだろう。主人公が釣りをしていたときに現れた海鳥の子?それとも、専門学校を中退して田舎で暮らす主人公のまだ幼い部分を表してるのか?

この作家の「幼な子の聖戦」という本を読んだらとても読後感が悪く(そういう小説なんです)、作者まで嫌な奴なのかと思いそうになったんだけど、そこまで読者の気持ちを動かすからには、なかなかの筆力なのではないかと、デビュー作のこの本を読んでみたわけです。

実際、この本の主人公はとても未熟でウダウダしているんだけど、それを描き切る力が感じられます。デビュー作から「幼子」まで、作者が描きたいテーマには共感できるようで希望がなさすぎるんだけど、読ませます。でもやっぱり、マジックが…欲しいんですよね。読んでよかった、自分の中で何かが変わった、と、勘違いでもいいから思いたい、という部分が人にはある。テレビドラマみたいな勧善懲悪でなくても、何かもっと心を動かしてほしい。この辺は、売れるかどうかというポイントになってくるのかもしれません。作品の素晴らしさとは別の観点。

もうしばらくしたら、また読んでみたいです。

海猫ツリーハウス (集英社文芸単行本)

海猫ツリーハウス (集英社文芸単行本)

 

 

アーナルデュル・インドリダソン「声」604冊目

この作家の日本語訳、3冊目。このシリーズは書き続けられてて、すでに日本語訳があと2冊出てるようですね。

これもまた、失意のうちに命を奪われた人の人生の物語でした。読んでる最中も、読み終わったあとも、残念な気持ちでいっぱいになるけど、なんというか、自分から見て遠い世界ではないというか、わびしいけど読まずにいられません。続いて2冊読むぞ…! 

 

細谷功「具体と抽象」603冊目

友達から借りて読みました。テーマが1つに絞られてて、具体と抽象についてだけ掘り下げて、どんな人にも届くように、懇切丁寧に語られた本。

言われなくても理解できてるような気がする一方、自分が普段の判断や言動でこの具体⇔抽象のピラミッドを活用できてるか?と考えると、はなはだ心もとないです。

すごく楽に、数時間で読んでしまえるけど、頭にしっかりインプットして使いこなしてみたいです。実はなかなか重要なことを書いた本です。

具体と抽象

具体と抽象

 

 

アーナルデュル・インドリダソン「緑衣の女」602冊目

これも「湿地」同様、陰鬱で愛と思いやりにあふれた人間たちのミステリー。とても力強い文章で、引きつけられてぐいぐい読みました。湿地のときは、犯人の時系列と操作の時系列を並列にした映画のほうが共感しやすいと書いたんだけど、この本は最初から並列で書かれていたので大いに共感しながら読んでしまった。ただ、最後の最後の種明かしは、若干あっけなくて、見つかった白骨死体以外の失踪者のことはやぶの中のまま。生き延びた母子の人生も多くを語られることはなく。なんとなく大味なのにやたらと繊細でもある不思議なアイスランド気質、なのかな。妖精や霊魂の存在をわりとみんな信じていて、人が生きていたのか死んでいたのかという、英米なら何より重視しそうな点にはそれほどこだわらない。

もっと翻訳されてるなら、他のも読んでみたいです。

緑衣の女 (創元推理文庫)

緑衣の女 (創元推理文庫)

 

 

 

東野圭吾「マスカレード・イブ」601冊目

たまたま手に入ったので読んでみました。キャラクター設定が「いかにも」なところはあるけど、面白い。トリックも珍しくはないけど、いろんな部分をキャラクターの魅力で補ってます。

これ、キムタクと長澤まさみで映画化されたんですよね。キャラクターは合ってるけどキムタクは役に対して年齢とか貫禄がオーバーしすぎてるよなぁ…。 

マスカレード・イブ (集英社文庫)

マスカレード・イブ (集英社文庫)

  • 作者:東野 圭吾
  • 発売日: 2014/08/21
  • メディア: 文庫
 

 

アーナルデュル・インドリダソン「湿地」600冊目

寡聞にも知らなかった、北欧ホラー台頭のなかにアイスランドの作家もいることを。さらに、その代表的な作家の作品が映画化されてたことも。友人から聞いてさっそくこの映画を見てみたんだけど、映画の感想のなかに「小説のほうが良かった」という人が多かったので、順番が逆になってしまったけど原作も読んでみることにしました。

いくつかわかったこと。(ネタバレあります)

事件の鍵は遺伝性の疾患とレイプなんだけど、幼い女の子の死にまつわる最新の事件のことは小説では最後になるまで出てきません。映画では、刑事がレイプ犯が殺された事件の捜査を進めるのと並行して、それより数か月前に始まったその最新の事件が進行していきます。 むしろ、最新の事件の関係者の視点で映画は作られています。エンタメ性はこのほうが高いかもしれない。複数の時系列の事件が同時進行する映画って、すごくわかりづらいんだけど、関係なさそうに見えた複数の事件が一点に収束していくのがスリリングです。

ただ、この作品に関しては「遺伝」が最大のポイントなのに、映画では冒頭が遺伝子研究所だし、最初からヒントというより答が提示されてしまっている感じがあります。とはいえ、小説でもわりと早い段階から「遺伝」という語は出てくるので、小説のほうでももっと後まで取っておいてよかったんじゃないかと感じます。

それから、アイスランドの人名や地名は耳慣れないものが多く、口に出して発音することすら難しいので、映画で登場人物をビジュアルに把握するほうがわかりやすいかも。(ただ、ぱっと見似てる人も多いし、人間関係が複雑なのでやっぱり難しいんだけど)

ほかに、レイプ犯が映画だと3人がかりとしか取れないけど小説では単独犯であることが明白。そもそも、それがレイプだったのか合意だったのかも、映画ではいまひとつ明白ではありません。もしかしてこの辺は、原作に忠実に慎重に字幕をつけていたら、それだけで変わっていた部分かもしれません。

…でも読み終わってみて、ちょっと考えが変わりました。この作品の主人公は、その遺伝子を受け継いだ男であるべきだ。刑事を中心に描いてしまうと主人公は最後の最後に登場するだけになってしまうけど、謎解きよりこの不幸な男の一生に注目を集めるためには、彼は最初から登場しなければならない。映画化に当たっては、作品の再構成の苦労が必要だったんだな、と。

小説のほうが切なさがつのるけど、それは本人が登場する前からずっと彼は行間にいて、ビジュアルがない分、読者は彼に対するイメージを持ち続けられるからだ。

小説と映画って、メディアとしての特徴が違うから、場合によってはこういう風に再構成が必要になるのか、と、新しい発見がありました。

同じ作家の他の作品も、続けて読んでみようと思います。

湿地 (創元推理文庫)

湿地 (創元推理文庫)

 

 

テレサ・ダグラス/ホリー・ゴードン/マイク・ウェバー「リモートワーク・ビギナーズ」599冊目

図書館の新刊コーナーで見かけて借りてみました。

著者たちは、2010年に突然全社リモートオフィス化した、つまり全員が在宅勤務になったカプラン・テスト・プレップ社(https://www.kaptest.com/)の社員。世界じゅうがコロナ禍で在宅勤務になった今、先人としての彼らの経験が注目されるのは当然です。

この本は、一般社員の心得としてたとえば「毎日ちゃんとスケジュールをたてよう」「ビデオ会議があっても困らない服装をしよう」といった基本的なところから、マネージャーの心得として、リモートだとわかりづらい部分をどうやって補うかといったところを詳しく書いてあります。おもしろい。

この本は実際に悩みを抱えている人の励ましになると思います。借りちゃったけど、少なくともコロナ禍が去るまでは手元に置いて気になる章をちょくちょく読み直したりすると良さそうな本です。