萩尾望都「11月のギムナジウム」623冊目

これはSF色のうすい、抒情的なジュブナイル作品集でした。この人はほんとに絵がうまいなぁ。登場人物がなんというか上品で美しくて、それだけで好感をもってしまって、キャラクターに惹きつけられてしまう。乱暴者でも、わがままでも。

物語は人間の根源的な部分にぐっさりと切り込むものばかりですね。幸せとは、家族とは、自分とは。離れ離れに育ったきょうだいや双子、あるいは見た目が瓜二つの少年少女たちというモチーフが繰り返し出てきて、運命に翻弄されながら自分の心に忠実に生きようとがんばる。その姿が美しく、彼らの運命を自分の方に向けようと無理をする周囲の人たちも愛しく思えてくる。

1970年代の少女まんがは、面白いものがたくさんあったけど、みんなここまでの完成度だっけ?世相を切り取るタイプの「スター」はその時代の人々を魅了するけど、萩尾望都の作品はすごく普遍的ですよね。たとえばカズオイシグロの「わたしを離さないで」みたいな世界。(この作品集にはああいうSF的な設定はないけど)

そしてまんが家の強みは、映画監督であり脚本家でありキャスティング担当であり美術であり大道具であり小道具でありすべての出演者でもあること。ないのは音楽くらいか?萩尾望都の場合、ストーリーも絵もあまりに完成度が高くて、一生家を出ないで仕事場にこもって一人ですべてが完結しそう。(逆に取材とかは大変なのかもしれないけど)

まだまだ読みます。 

(1971年の作品。2016年4月20日発行 562円)

11月のギムナジウム (小学館文庫)

11月のギムナジウム (小学館文庫)

 

 

萩尾望都「恐るべき子どもたち」622冊目

続いて読んだのがこれ。映画を見たつもりだったけど見てませんでした。漫画は漫画家の理想をそのまま 絵にできるので、現実離れした他人の空似や、キャラクターを完璧に画像化することもできるけど、映画には役者自身や役者どうし、その場のマジックがあるから原作以上のものができたと感じることもあります。どっちも気になるので、映画もレンタル予定。

「11人いる!」シリーズのフロルのような、天衣無縫、自由奔放な少年or少女を萩尾望都は愛してるんだろうな。コクトーもそうかもしれないけど。洋画には世の中のルールに縛られない、またはルールを知らないそういった若い人たちが華やかに登場するものがけっこうあります。ただこの作品では、エリザベートとポールという姉弟が二人ともそれなので、はたから見ると危なっかしい。彼らを支える良識的な友人ジェラールや医師、奔放さや美しさに魅せられて結婚して遺産を残したミカエル。(大天使の名前?)彼らはまるで世界から祝福されてるみたいに、いつも誰かに守られて生き延びています。

身近にいたらイライラして絶対キレてしまうと思うけど、彼らは確かに美しい。問答無用の力で惹きつける。私はけっこうもう長いこと生きてきたけど、こういう天使のような悪魔のような人たちとどう付き合っていったらいいか、いやそれ以前にどう接したらいいのかも、わからないままです。(1979年に書かれた作品。2005年11月1日発行 476円)

恐るべき子どもたち (1) (小学館文庫)

恐るべき子どもたち (1) (小学館文庫)

  • 作者:萩尾 望都
  • 発売日: 1997/04/17
  • メディア: 文庫
 

 

萩尾望都「11人いる!」621冊目

Eテレの「100分de名著」恒例の年末年始特番で「100分de萩尾望都」という番組をやっててたのを見て、読みたくなって借りてきました。

私も小さい頃から、日本の少女として正しく少女マンガを読みふけったものでしたが、萩尾望都作品は(む、むずかしい…わからない…)と敬遠しがちでした。最近はこむずかしい映画を見てエラソーに感想を書いたりしてますが、そういえば私は元々バカ娘だった‥‥ははははは。

さてこの「11人いる!」は短いので、私でも昔面白く最後まで読んだ記憶があります。11人目の正体もうっすら覚えてたけど、やっぱり本当に面白かった。何より、SF世界の前提(世界観とか呼ばれるやつ)がしっかりしてる。今さら私ごときが言うことでもないけど、最近の超おもしろい中国SFの50年近く前にこれほどの名作が描かれていたという事実にはっとします。内容の充実に負けない絵の美しさもすごい。キャラクターに変な色がないのに個性がそれぞれ魅力的に際立っていて、飽きません。

そもそもの知識の豊富さは、どこから来るんだろう。週刊誌でなく月刊誌の連載だと、毎回調べ物をする時間も取りやすいのかも?しれないけど、この人は「一度ぱっと見たことを忘れない」んだろうか、何か魔法があるのか?と思うくらい、この作品なんてまだ26歳で描いたことが信じられないほどのどっしりとした作品です。

「両性具有」ではなく「性が未分化の両性体」という設定をするための調査とか、冒頭の、星々の民族の類型づけとかも詳細でありながら破綻がない。これを描いた人の頭の中は、広くて豊かで安定した王国みたいなもんだろうか。

「続・11人いる!」は、最初から描く予定だったのかな。タダとフロルの魅力のために読者から続編を求める声がそうとう上がったんだろうし、”入学後”のことも描きたいと思ったんだろう。とても面白かったしこっちのほうが(死者も出るし)重みがあるけど、うち棄てられた宇宙線の中に規定以上の人間がいて、何も知らされないまま漂う…という設定の最初の作品のほうが、緊迫感や新鮮さが突出してますよね。

さあ、次はどれを読むか??(描かれたのは1975年、文庫本1994年12月10日 580円)

11人いる! (小学館文庫)

11人いる! (小学館文庫)

 

 

みずほ証券リサーチ&コンサルティング、アイ・コンセプト編「IPO・内部統制の基礎と実務第2版」620冊目

この手の本を読み始めて初めて、福岡など地方に新進企業のための株の市場があることを知ったりしています。経営の学校に通ったのはもう15年前…それ以来すっかり縁遠くなっていました。

上場について書いた本で読者として想定してるのは小企業というより中規模の企業だし、ある程度長い間利益を上げ続けている企業だ。なぜなら株の上場というのは大変な社会的責任を伴うことだから。そう考えると、ファンドから出資を受けて創業した企業がわずか2,3年で上場なんて、はなから無理があるような気もします。

この本の特徴は、微に入り細に入り、これがあればすべてOKというくらいのテキスト的な本という点ですかね。…と思ったら、末尾に「IPO・内部統制実務士」試験の案内が。IPOが増えてるらしいので、この資格を取っておいてもいいかもなぁ?

(2015年11月第2版発行3600円)

IPO・内部統制の基礎と実務(第2版)

IPO・内部統制の基礎と実務(第2版)

  • 発売日: 2015/11/14
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 

EY新日本有限責任監査法人 編「IPOをやさしく解説!上場準備ガイドブック第4版」619冊目

新年早々ずいぶん堅い本ですが。このあとしばらく、これ系が続きます。

小さい会社がいつか上場(またはM&A)を目指すとき、バックオフィスでは何をしておかなければならないか?というのを調べています。この本はわかりやすく読みやすく、何度も読み返しながら業務ルールを固めていくのに使いたい感じの本でしたね。

他の本もどんどん読んでみようと思います。(2020年8月第4版発行2300円)

明司雅宏「希望の法務」618冊目

最近また法務の仕事を始めたので、オンラインセミナーを受講したらこの本が紹介されたので、さっそく読んでみました。

めちゃくちゃ地味な装丁。最近ここまでシンプルなのは珍しいくらい。単行本なのに岩波文庫みたいだ。奇をてらったり見た目で勝負しようとしたりしない著者の気概でしょうか。

私が法務部に勤務していたのは1993年から2004年まで。英文学部しか出ていないし、派遣社員だったので最初は事務補助から。人の出入りの激しい外資系企業だったので、やがて社員になり、気が付いたら古株になっていて、だんだん契約書のレビューやローカライズ、交渉にも関わるようになり、新商品のリーガルチェックやコンプライアンス、標準化とかにも関わらせてもらうようになりました。最初は契約書や法律にアレルギーがあって、できれば違う部署が良かったんだけど、たまたま派遣の仕事があったのが法務部だったので「仕方なく」所属することになりました。それが、会社でボスの主導でやっていた民法勉強会や、知財の勉強をするようになってから、だんだん「法律って結局、昔誰かが高い志で万人に平等に権利義務が持てるように作ってくれたものだ」と思うようになり、同じように苦手意識があって勇気を出して相談に来てくれる他部署の人たちに、できるだけフレンドリーに話を引き出して、一緒にビジネスを構築しよう、一緒に案件を獲得しよう、という気持ちで仕事をするうちに、だんだん面白くなってきたのでした。その頃の私の目指したものは「ソウルフルな法務」。この本を読んで、その頃の自分を思い出したし、この著者が上司だったらもっとあの仕事を続けられたかもしれないとも思いました。(この本で啓蒙しようとしている形式主義的な人が多かったから、私は浮いてたんだろうな)

これからの仕事で私はいまの小さい会社に貢献できるだろうか?

希望の法務――法的三段論法を超えて

希望の法務――法的三段論法を超えて

  • 作者:明司 雅宏
  • 発売日: 2020/10/03
  • メディア: 単行本
 

 

 

パティ・スミス「ジャスト・キッズ」617冊目

私は芸術家のドキュメンタリー映画を見るのがすごく好きで、元々よく知らなかった人でも、見ているうちにその人たちの作品の美しさや、それらを生み出すために生きてきた葛藤に泣けてくることが多い。(NHKの「ドキュメント72時間」で普通の誰でもない人たちの定点観測を見るだけでも、たいがい泣ける)私は小さい頃からずっと冷たそうとか人間に興味がないとか言われてきたけど、これほど知らない人たちの人生を覗き見たがって、毎回感動できるんなら、特別ほかの人に興味がないというわけでもないんじゃないか。

パティ・スミスはアルバムを1枚聞いたことがあるていどで、8年前にこんな本が出てたことは知らなかったし、メイプルソープという著名な写真家との関係も全然知らなかった。最近「ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス」という映画を見たら、そこで彼女がトークショーをやって著書について語っていて、読んでみたいなと思いました。

最初は「けっこう厚いな~読み切れるかな~」と思ったけど、やせっぽちの少女として彼女に化体してニューヨークに出てきて、チャーミングで危なっかしい人たちと出会って愛し合って刺激しあって、それぞれの生まれ持った本質を開花させていくのに同行させてもらって、やがて行く道が分かれていって最後の別れまで一緒に経験して一緒に泣きました。実に、素晴らしい本です。ロバート・メイプルソープという人の人間としての美しさも、魂の純粋さ、彼だけが持つ天使の翼みたいなもの…才能と、パティ・スミスのエネルギーや大きな人間性に圧倒されました。

彼らだけじゃないのだ。人間はみんな、自分だけが持って生まれた翼みたいなものを、できるだけ大きく広げられたらいい。誰かが作った仕組みにすっぽりはまって、誰かから褒められるために同じことをしていい子になることなんて、神様は本当は望んでない。

私も人生折り返して、どこまで自分の翼を広げられるか、というところに今いるので、明日の自分のために、この本のことをずっと忘れずにいたいと思います。 

ジャスト・キッズ

ジャスト・キッズ