畑中学「不動産業界のしくみとビジネスがしっかりわかる教科書」806冊目

本当に教科書だった。しかもカラー図解たっぷり、1テーマ見開き2ページずつにまとまっていて、すごくわかりやすく包括的。これは、不動産業界や建設業界に就職したい人だけじゃなくて、マンション買おうかなと思い始めた人、リート買ってみようかなと考えてる人など、業界のどこか一部に興味が出てきた人にも役立ちそう。不動産業界の初任給とか離職率とか、就職あるいは転職を本気で考えてる人にすぐ必要なデータも載ってます。

私はだいぶ前から「宅建…取ろうかな…」と考えたりしてますが、この業界で働くことは当座はないので、またそのうち…。

 

綿矢りさ「かわいそうだね?」805冊目

やっぱりこの人の小説は面白い。この本には、煮え切らない彼氏に見切りをつけるべきか悩む洋服店員と、美人すぎる友人をもった女性、それぞれを描いた2編が収められています。

同じ女性としては「作品の感想」が書きづらい。どうしても、主人公に対して一言言ってやりたい、たとえば「元カノを一人暮らしの自宅に住まわせるなんておかしいでしょ!何もなかったとしても相手はその気なわけだし、そんな男と結婚なんかしても、一生そういう謎の親切に悩まされ続けるよ。アンタは一切、一番大事な人として扱ってもらえないんだよ」とか。「美人すぎるとか優秀すぎる人って孤独に決まってるでしょう。自分もやっかみが強いんだろうけど、ここまで一緒にやってきて今は親友なんだから、彼女を埋めてあげられる結婚なら応援してみたら?」とか。いややっぱり反対する方が親身な気もするけど。…というありさまで、客観的な評価ができません。

題材が身近だからか?作品がすぐれているから感情移入しすぎるのか?vs 感情移入しすぎる作品はいい作品なのか?…賞の選考をしてるわけでもない、ただの一読者なんだから、客観的な評価なんて試みる必要もないですね。この人の小説は、とにかく、今回もすっごく面白かったです。

 

古川安「津田梅子 科学への道、大学の夢」804冊目

脚注や参考文献だけで全体に1/5くらいはありそうな、学術書として発表されたけれど、伝記として読むのも正しい本です。

重要なポイントは、今までの津田梅子の伝記は、梅子の側の人間が彼女を中心として調査したものだったのに対し、この本は科学史を専門とする著者がたまたま住んでいた町にブリンマー大学があったことから、ブリンマーの理科系学部へのアクセスの強さや科学にまつわる歴史の専門家である、という点で、今までにない視点からの分析があること。研究者としても将来を大変嘱望されていたとは聞いてたけど、それが具体的にどれほどのことだったのか、記録や背景状況から具体的に浮かび上がって見えてきたと感じました。

梅子、女子英学塾やその後の津田英学塾の先生方がときに文科省におもねるようにも見える請願、たとえば「英語教育は戦時下においても重要なので残してください→女子に理科教育を行うことでお国に尽くします、etc」については、一貫性がないと批判する見方もあるかもしれないけど、私は大いに支持するなぁ…。プロセスより結果を重視する、現実的なものの動かし方だ。生き延びてナンボだ。女子教育を津田塾が諦めたら誰が守ってくれる?

他には、梅子が直接教えた山川菊栄に「トルストイなど読んでいてはだめだ」と厳しく叱責した話などは人柄のわかるエピソードで面白かったです。「アンナ・カレーニナ」「戦争と平和」どちらも体制や夫に反発して愛に走る激しい女性が出てくる。そりゃ確かにこのヒロインたちはall-round womenの対極だ。

先日放送された梅子のドラマで、梅子を広瀬すずが演じていたのが違和感あるなぁと思っていたけど、改めて若い頃の梅子の写真を見ると、意思が強く自分を信じるエネルギーを蓄えてどっしりしている感じの佇まいが、意外と似てるなと思いました。

 

久生十蘭「久生十蘭短篇集」803冊目

どこで見たのか忘れたけど、久生十蘭という作家が1955年にこの本に含まれる短編「母子像」(の英訳)でニューヨーク・ヘラルド・トリビューンの「世界短編コンテスト」の一位を取ったというので借りてみた。読み始めてみると、海外を意識したような明治時代っぽい、あるいは初期の村上春樹みたいな文章で、しかも英語じゃなくてフランス語が普通に入ってくる。フランスで暮らしていたりもする。奇矯な大金持ちや不幸な子どもといった、典型的な「日常」とは違うシチュエーションの物語が多い。

ロアルド・ダールの短編集みたい、って最初に思った。すごく知的でシニカル。「斜に構えていながら最後に希望をもたらす」ということはなくて、最後にどんでん返しがあれば、それは”最悪から地獄へ”みたいなネガティブな転回か、すとんとオチなく終わるというはぐらかし方のどちらか。すごく、読みづらい。毎回「ええ~~」とちょっと不満を抱えて次を読む。不幸でも変化なしでもいいから、なにかもう少し、分からせてほしい。

私は常ひごろ、わかりやすいハッピーエンドやお涙ちょうだいのストーリーを批判ばかりしてるけど、この短篇集の前ではまったくありきたりのドラマ好きな現代人だ。なんか面食らう。まるで南米やアフリカや東ヨーロッパのような、行ったことのない遠くの国のノーベル賞受賞作家の作品みたいに、取りつく島がない。

などなど、何かをつかもうとしながら感度の悪い自分にがっかりしただけの読書体験となりました。この作家に関する文章や番組を見かけたら見てみて、少しでも洞察が深められたらという気がしています。

 

藤本シゲユキ「幸福のための人間のレベル論」802冊目

思えば私にも、どうすれば男性に好かれるか?どうすれば素晴らしいパートナーを見つけて幸せになれるか?と考えて悩んで、相性占いに凝ったりそういう指南書を読んだりした時期があった。不幸から抜け出せない親のことで悩んで、とことん付き合ってどんどん自分も不幸になっていった時期もあったなぁ。自分と関わってくれた人たちを切り捨てることができなくて、一人でいれば幸せなのにあえて堕ちていく、っていうのが若いころの自分だった。こう書くと「バカな女だ、そんな奴ら置いていけ」って思うけど、不思議と後悔はしてない。そこまでやりきったから、今はもう深入りはしない。体でわかるまで、納得するまで実体験できてよかった。

会社を辞めるのをずっと迷ったのは、お金が何とかなるとしても、会社がなくなったら自分がなくなるような不安があったから。「辞めちゃえば?」と言ってくれた人は、尊敬する人でも悩みを相談した相手でもなく、先に会社を辞めた友人だけだった。結局自分で決めたことだけど、定年よりだいぶ前に退職したことは、今までで一番いい判断だったと思ってる。今はしみじみと幸せで満ち足りていて、いろいろなことが楽しみで、自分がもっと何かに役立つことができるっていう思いでいっぱいになってる。

でこの本ですが、タイトルがインチキっぽくて普通なら読まないけど、尊敬する人から勧められて読んでみたところ、意外なほど納得できました。(失礼な言い方で申し訳ないです)レベルとかステージとかスクールカーストとかの言葉そのものが嫌いなので、そこでピキ!と来ちゃうんですよね。すみません。でも、これは財力とか世間的な名声とかを高める本じゃなくて、そういうものをどれだけ棄てられるかという「レベル」の話でした。

思うに、生まれたばかりの子どもはとても高いところにいるんじゃないかなぁ。そこから型にはめられて、周囲の人たちの思惑や夢に引きずり回されて(自分で選択してるんだけどね)、20代~30代くらいがいちばん先が見えず、悩みや苦しみが強くなるけど、40代50代になって失うことを知ると、人やものに対する執着が自然とはがれ落ちて、きれいになっていく。ペガサスに戻っていく。

だからこの本も、渦中にいる人が読んでも変われないのかもしれない。私は老後を見越したオバサンだから共感できるし、それが立派なわけでもない。私はこの本を読むまでもなく、自分がもっと幸せになるために、面白いことを仕掛けて、あわよくばそれを使って誰かが少し幸せになってくれるといいなと思ってる。この本でいうペガサスのようなものを自然と目指してる。

輪廻転生っていうスパンで考えると、今生で若い頃にバカなことをして苦しんだことは、自分には必要な学びで、今の自分がその頃より賢いのも当たり前。青筋立てて目を血走らせて(そうだっけ?)がんばって、挫折ばかりして大泣きしたりしてた若いころの自分が、今は可愛く思えます。もう生まれ変わらなくても十分楽しんだ、苦労した、やりきった、と思えるよう、残りの人生をますます「気が済む」まで生ききることだけがこの先の目標かな。

 

丸山健太郎「珈琲完全バイブル」801冊目

コーヒーは私のライフワークの一つなので、良さそうな本を見つけたら片っ端から読みます。

この本は、生まれて初めてコーヒーに本気で興味を持った人にとっては「完全バイブル」だと思うけど、私はもう変な偏りとか歪みとかを持ってしまった悪いマニアなので、好みとしては先日読んだ、嶋中労・旦部幸博「ホーム・コーヒー・ロースティング」の方が今自分が求めてるものと一致してますね。もちろん、「完全バイブル」の一部分でも完全に理解したりマスターしたわけじゃないけど(カッピングもブレンドも、私にはまだ無理)。

生意気言ってますが、ゲイシャの生豆も買ってみようとか、ガテマラは次に買ったら深煎りやってみようとか、金属フィルターやマキネッタ久々に使ってみよう、こんどウェーブフィルターも買ってみよう、など、この本で得たものも多いです。

コーヒーの世界は、深くて広くて本当に楽しい…。

 

山口雅也「落語 魅捨理全集 坊主の愉しみ」800冊目

久々に山口雅也作品を読んでみました。江戸を舞台にした時代(倒錯)ものミステリーです。

ずっと読み続けてるわけじゃないので、小ネタにわからないものが多くて、笑えたり笑えなかったりですが、楽しい短編集でした。それにしてもこの人の作品は小ネタが多い。。。