筒井康隆「朝のガスパール」840冊目

読んでるとちょっと気分が悪くなる、筒井康隆作品のあの感じ。パソコン通信(私も少しやってた)の内輪っぽさとオタクっぽさ。これでも新聞小説という一般向けメディアなので若干は抑え気味な、それらの「あの感じ」が懐かしいような思い出したくないような・・・いややっぱり懐かしいです。加減が難しい・・・いや、これより抑えたところで激しく反感を持つ人も攻撃する人もいるだろうから、そういう「度合」の問題じゃないですね。小説にもマンガや映画にも、露悪的な作品を作り続ける作家たちの流れってあるように思うのですが、こういう作品が発禁になったりせずにメジャーな媒体に乗り続ける世の中であってほしいです。受け止める一般大衆の一人として、極端で過激なジョークを笑い飛ばせる者でありたい、とも思います。

表現が過激(抑え気味とはいえ)なので、時空をひょこひょこ超えることの新しさが目立たないけど、やっぱり筒井康隆は元気だなぁ。「パプリカ」は2017年に映画を見て好きになったけど、原作が筒井ということを見落としてました。すみません。原作を読んでからもう一度映画のほうを見直してみよう。

好きか嫌いかというと、好きな作家と認識してるわけじゃないんだけど、1970~80年代に私がよく読んでたSF作家のひとりとして、荒唐無稽でも露悪的でもいいので、エネルギーほとばしる活動を続けていてほしいなぁ。

 

福井県立図書館「100万回死んだねこ 覚え違いタイトル集」839冊目

これは面白かった。ときどき声を出して大笑いしてしまった。こういう罪のない笑いって、ほんとなごみます。

この図書館の覚え違いリストは何度か見たことがあって、そのたびにクスクス笑ってましたが、この本はとても構成がよくて、間違ったほうのタイトルに合わせて描かれたイラストも可笑しいし、司書さんの対応も真面目でありながらウィットが利いてて、抑えてた笑いがもれてしまう。

正解がわかる本もけっこうあったけど(読んでなくても)、「なるほどやっぱり」から「どーしてそうなる!」まで色々。あー面白かった。

ところで、それぞれの本は表紙の写真じゃなく、それを手描きイラスト化したものが使われてます。登場する人物やキャラクターも手描き。こういう場合って元ネタの出版社とかに許諾をとるんだろうか、取らないんだろうか・・・単に好奇心ですが、気になる・・・。

 

スチュアート・マクブライド「獣たちの葬列」838冊目

原題は「A Song for the Dying」、死にゆくものへの歌。一方の邦題はバイオレンスアクションって感じがするけど、内容は原題とも邦題とも違って、クライムサスペンスだった。ただ、警官が悪いヤツや乱暴なヤツばかりで、スコットランドではそうなんだろうかと心配になってしまう(そんなわけないか)。

翻訳が、自然な日本語というより、少年マンガ雑誌のせりふみたいに読者をあおり気味でちょっと私には読みづらい。トリック?や「オチ」は、どんでん返しがあるけど結末にはあまり納得感がない。知的じゃない犯人という設定で、いろいろ抜かりがあるのに生存者の記憶がなさすぎるし、だいいち電話の声が・・・(これ以上のネタバレは避けよう)

映画化されたら私が見に行かないタイプの作品になるんだろうな・・・という感じの本なのでした。

 

「合同会社設立・登記・運営がまるごとわかる本」837冊目

去年から帳簿をつけはじめた自営業の私。たまに人から「会社組織にしないの?」と言われる。するなら、人は雇わず一人でやるので合同会社だ。会社にした方がお得な部分と、しない方がお得な部分があるので、利益がどれくらいになったら会社にするといいのか?前に何かで見たら「利益が900万円」って言ってて、一生個人で大丈夫と思ったんだけど、その裏取りがしたくてこの本を読んでみました。

結果:そういうことは書いてない本だった

もし作るとしたら何をしなければならないか、とてもわかりやすく詳しく書いてあって、親切な本だけど。

会社設立の手続きはMoneyFowardもfreeeもほぼ0円で(どこでやっても必要な印紙代や手数料以外)できることを宣伝してるので、この本に書いてある「紙の定款」よりもっと簡単にできそう。大事なのは会社の中身ですね・・・。

利益だけじゃなくて、補助金の申請が会社組織しかできないことがあるし、会社としか取引しない大企業もあるので、いつか会社にする必要が出てきたらまた読んでみようと思います。

 

村田喜代子・酒井駒子ほか「暗黒グリム童話集」836冊目

素晴らしく美しい本でした。

小説家6人×画家6人の組み合わせで、グリム童話をベースにした新作の怖い童話を作り上げています。文字数も絵の数もたっぷりとってあるので、美しいだけじゃなくてストーリーも深くてすごく読み応えがあります。

村田喜代子はそもそも私の愛読している作家ですが、こちらも大好きな酒井駒子の可憐で暗い絵がともなって、60分くらいのアニメ映画をフルで見てるようです。

中でも多和田葉子の「ヘンゼルとグレーテル」がとても面白くツボでした。ダークというよりブラックで、童話から教訓を導き出そうとする大人たちをおちょくるような皮肉が利いていて。

さいころから見てた宇野亜喜良が今も刺激的な絵を描いてることにも驚きました。

ほんとに、素敵な本です。

 

アガサ・クリスティ「未完の肖像」835冊目

「春にして君を離れ」に続いて読んだ”メアリ・ウェストマコット”名義の小説。

重かったなぁ。若くて純真な女性の一途さが傷つくと、きっと誰しもこんな経緯をたどるんだろうと思う。そこから枝分かれして、人を赦せるようになったり、人をもっとよく知るようになったり、自分を責め続けたり、相手を憎むだけの人生を送ったり。アガサは賢明な自分の母と祖母を思い返すことで、人をもっとよく理解するようになり、それ以降の小説を書いていった・・・と想像してみる。この小説に書かれたシーリアを著者と同一視しすぎてはいけないとわかってるけど。

世の中には、人にも物にも愛着を持ち続ける人と、そのときの衝動で簡単に頭を切り替えられる人がいる。いじめや犯罪を起こしても自分が正しいと信じて疑わないという心情を保てる人に、悪いことだと納得させるのは難しいのだ。

自分も若いころはずいぶんいろんなものに執着してしまった。今もそういうところがあるかもしれない。でも、ある程度手放さないと生きていけないし、手放せるようになってきたと思ってる。それでもこの小説を読むと、自分を主人公シーリアに重ねて、降りかかった不幸や自分を傷つけた人のことを思い出してしまうのは、まだまだ成長しきれてないってことなんだろうな・・・。

あと4冊、メアリ・ウェストマコットの小説をまだ読んでないけど、なかなかの重さなのでちょっと間を空けよう・・・・。

 

東田直樹「世界は思考で変えられる」834冊目

最初は自閉症の人の内側の気持ちが知りたくて読んだけど、この人の文章が好きになって何冊か読んでます。反射的に人とうまくやれる人は深く考える必要がないかもしれないけど、不器用な私は、なぜうまくいかないのか考える。そんなときに、考え続ける東田さんの考えを聞いてみたくなる。

彼の書くものに目を開かされる感じがするのは、すごくフラットに観察できる人だからかな。感情が高まってどうしようもないとき、そんな自分を外から見たら、感情だけが高ぶっていて事実関係を見てないことに気づく。そういうところまで、この人は見てて、どうすれば冷静に、前向きに対処できるか、的確なアドバイスをくれます。

今ちょうど考えてたことについてもヒントをもらいました。ありがとう東田さん。