桜井美奈「殺した夫が帰ってきました」1078冊目

これもAudibleで聴きました。せっかちなので、最大2倍速。

なるほどね。(読み終わったときの感覚)

最後の最後のトリックは、だまされたと感じる人もいるかもしれないけど、生まれてきてもまともに扱われない子どもが意外にたくさんいることは知っていたので、ありえない話ではないです。「砂の器」みたいに、昔なら戦争という混乱を利用した犯罪があったけど、今はもうそういうトリックはないだろう、と長年思ってましたが、この時代にも大地震という混乱がありうるんだなと、少し悲しく感じます。

「まな」になぜかけっこう感情移入して読んでしまって(私はネグレクトされたわけでも、夫を殺したわけでもないけど)、けっこう胃が痛い思いで読み(聴き)進みました。

タイトルにインパクトがあるし、ストーリーとしても破綻はなく、わりとよくできたミステリーだったんじゃないかと思います。

 

酒井順子「日本エッセイ小史」1077冊目

かなり包括的に、日本の随筆・コラム・エッセイ等とよばれる文章の歴史をカバーしている本でした。なんだけど、客観的な「小史」って印象が全然ないのが不思議。

語尾の、ですます調に混じってひんぱんに現れる「~のではないか」が、私には「~のである」くらい強い意見に見えて、見るたびに少し引いてしまう。強い意見だと強調するのでなければ、他の語尾と合わせて「~のではないでしょうか」と書けばいいのに、なんでこの箇所だけ「~のではないか」なんだろう。

この著者の本を読むのは初めてなので、単にまだ私が行間の気持ちを全然受け止められていない気もします。気持ちが通じるまでには、何冊も読む必要がありそうです…。

 

厚切りジェイソン「ジェイソン流お金の増やし方」1076冊目

これもAudibleにあったので聴いてみました。比較的短時間で聴けます。

この本の存在はだいぶ前から知ってたけど、読んでみてわかったのは、本人も言ってるけど、彼の投資法は本当にむちゃくちゃシンプルで簡単で、誰でもできるやり方だった。かつ、ものすごくストイックで、お金は贅沢するために増やすのではなくて、将来の安定のためにつつましく生活し、よく勉強して運用する。正直、もう少し荒業が書いてあるのかなと思ったけど、とにかく堅実で、彼の考え方、やりかたはリスペクトに値すると思います。

まったく知識がなくても、投資信託なので大丈夫。やるべきことは、生活を見直して少しでも残す、証券会社に口座を作る、彼の勧める投資信託に毎月あるいはお金が貯まったときに投資する。解約せずに稼ぎ続ける、安心安定のために運用をやめない。

これだけ簡単なやり方を指南してくれれば、どんなに知識がない人でも始められるし、世界情勢によっては荒波にもまれることがあるだろうけど、長い目で見れば増えるだろうな。

この本は若くて将来に不安を抱えている人に向けて書かれている感じがあり、私のような老い先短くなりつつある者はいつまで増やし続ける必要があるのか、特に、遺すべき人がいない場合は。

手元のたいしたことのない資金をなるべく減らさないようにしつつも、若い頃のように稼げなくなってくると、解約を始める必要が出てくるわけです。こうなってくるともう、長生きはお金のかかるリスク要因で、自分があとどれくらい長生きしてしまうかを逆算して(ある程度のインフレ要素もかんがみつつ)最後ゼロになるように使っていくのか…。こうなってくると属人的な要因が多すぎて、誰も本とか書けないのかもしれないけど、なかなかいろいろと悩ましいのです…。

 

恒川光太郎「夜市」1075冊目

Audibleで聴きました。一人の女性ナレーターによる朗読。大人の男性も出てくるけど、ほぼ違和感なく、かつ、複数の登場人物を区別できなくなることもなく、面白く聞けました。

ジャンルでいうと、ダークファンタジーという感じを受けましたが、ホラー大賞受賞作なんですね。「ダークファンタジー大賞」がない状況では、もっとも適切なジャンルかな、という気がします。

文章のトーンが好きです。私こういう、ふわっとした、夢の中の世界みたいな文体というか口調って自分の体質に合います。(現実的でパキパキと切れのいいトーンも好きだけど、そっちは「憧れ」って感じです)

現実の世界の容赦ないスピード感を忘れて、しばし、少し刺激的だけど優しい世界に身をゆだねたい…というのが、そもそもの読書の目的だったりするので。

ダークファンタジーといえば、映画でいえばギレルモ・デル・トロ監督の作品とかね。無垢な人々のすぐそばで怪異の世界が口を開けていて、一度迷い込んでしまうと、必ずしもハッピーエンドとはいえない結末まで振り回される。それでも不思議と、優しく切ない気持ちで終わる。そんな味わいがこの本にもありました。

しかしやっぱり、1冊の本を聴き終わる時間が7時間とか15時間とか(本のタイトルと一緒に表示されています)なので、途中でぷつぷつ切りながら聴くことになって、どこまで聴くかをあらかじめ決めるのは難しい。私はせっかちなので、少しスピードアップして1.2倍くらいで聴きたい(そのくらいなら、語りのムードがそれほど損なわれないと思う)けど、それでも1作を通しで聴く時間はなかなか作れない。この辺は慣れが必要で、自分の読書?聴書?体験を構築していくことになるんだろうなと思います。

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東野圭吾「誰かが私を殺した」1074冊目

初めて「Audible」で本を聴いてみました。映画は見るしかないし、本も読むしかないけど、最近目が疲れやすくて、時間があってもためらうことがあるんですよ。映画は音だけだと完全ではないけど、本は100%聴くことができる。Kindleで買って読み上げてもらうこともできるのかな。方法はいろいろありそうだけど、お試し期間のAudibleでさっそく、1冊聴いてみました。

単行本の厚さってあまり気にせずに読み始めることが多いけど、これは他の本よりずっと短い、「中編」くらいの長さなので、お試しにはぴったり。それにこれはAudible限定の書下ろしだそうです。だいいち、タイトルにそそられますよね。

誰かが一人で朗読したものかな?と思ったら、名だたるベテラン俳優たちが演じていて、これは「ラジオドラマ」だなと思いました。書下ろしなので、ドラマ化を意識して書かれたものかもしれません。寺島しのぶ、松坂 桃李、高橋 克典…。メイキング映像がAudibleのサイトにあって、改めて、なんてうまい人たちなんだろうと感動します。

ついつい聴き入ってしまって、本よりも時間を忘れてしまうのが問題かな…。夜遅くに聞き始めた私が悪いんだけど、途中でやめられず、だいぶ夜更かししてしまいました。「シオリ」をはさまなくても、どこまで聴いたか履歴でわかるけど、その前後をパラパラ見て思い出すことはできない。ふっと寝そうになったら、その分巻き戻して聞き直したいけど、どこまでもどせばいいかわからない。紙の本ならページのほうがそのままになってくれるけど、音声はどんどん先に進んでしまう。…この辺は、本を「聴く」人ならだれでも経験することなんでしょうね。

内容も、短めながら満足感がありました。ただ、これはラジオドラマを意識して作られているかもしれないので、他の本も試してみたいです。おそらく一人の人が1冊全部を朗読してるはず。

ラジオばかり聴いていたのは、まだ一人ひとりにテレビやパソコンがなかった子どもの頃。あの頃もラジオドラマ好きだったな。そんなことを思い出したりしながら、新しい経験を楽しんでみたいと思います。

www.audible.co.jp

アンディ・ウィアー「プロジェクト・ヘイル・メアリー」1072~1073冊目

<後半のストーリーにふれています>

アメリカのSF、単行本で上下2冊でこの厚さ。子どもの頃から長い小説は苦手だったし、この本も、(映画化されるんだったら映画ができてから見ようかなぁ)と何度もくじけそうになったけど、山場が何度も何度もあって、私のような根気のない読者も取り残すことなく、最後まで連れて行ってくれました。そして、このゴールの楽しさ、痛快さ。映画「オデッセイ」も、絶望的な状況のなかでも楽しみを見つけていくマット・デイモンに救われるような場面がたくさんあったな、そういえば。

宇宙でのサバイバル、地球の危機を救うのは自分一人、という究極的な場面…から、後半まさかこれがバディものになるとは、映画「メッセージ」(これは原作者違うけど)で、もしかしたら、自分たちとはまったく違う姿の異星人とコミュニケーションが取れるのかもしれない、という新しい世界への期待をもった後とはいえ、まさかここまでの展開があるなんて。本当に、この小説で使われている素材はすべて見たことがあるものなのに、その組み合わせ、料理のしかたでここまで新しいものができあがっていることに感動します。

映画は主人公グレース(男)がライアン・ゴスリング、冷徹非情なプロジェクトリーダー、ストラットが「落下の解剖学」のあのサンドラ・ヒュラー(ぴったりすぎる)。ほかの星の生物たちがどんな映像になるのかも楽しみ。「メッセージ」は先に映画を見てしまって想像する楽しみがなかったので、今回は存分に楽しませてもらおうと思います!

 

有吉佐和子「青い壺」1071冊目

令和のベストセラーだそうです、書かれたのは昭和52年(1977年)なのに。有吉佐和子といえばドラマ「悪女について」の印象が当時衝撃的で、その後たまたま手に入れた原作を読んだら、さらに迷宮の中へはまり込んでいくような気分になりました。あれはさまざまな人たちが、ある一人の女性についてそれぞれ全く違うことを語る作品でした。この本もまた、さまざまな人たちの、ある一つのものへの全く異なる関わりを描いています。

それぞれの物語の中心になる人たちは、戦争経験者。今でいう後期高齢者が多くて、時代的にはおかしくないけど、自分の祖父母は田舎の人で高価な壺など無縁だったこともあって、昔からの友人たちと旅行したり、ナイフとフォークでご飯を食べたり…という高齢者が昭和52年には想像できなかったなぁ…。

かつての豊かさ、戦争による没落、夫や昔からの友だち、子どもや孫との関わりが縦横無尽に描かれていて、壺がなくても面白いくらいだけど、唐突に彼らの生活のなかに現れるひとつの壺が、つめたく超然と、彼らのあわただしい生活を映します。

「面白さ」は普遍的なものだと思う…人間の本質は数百年やそこらで変わるものじゃないから。1968年の「三島由紀夫レター教室」とかも面白かったなぁ。誰かが強く勧めてくれる本、書店で強力に推している本にハズレなし。