中野信子「新版 科学がつきとめた運のいい人」1092冊目

これもAudible。聞くのにかかる時間が比較的短そうだったので、すきま時間にちょろちょろ聞いたのですが、なかなか納得感のある内容でしたよ。見出しだけ見ると、よい人間になるためのなにかの宗教上の教えみたいな感じ。正しい人であれ、無駄なく努力し周囲を助けて愛される人間になれ。

周囲が極悪でなければそれでうまくいくだろうけど、悪い人が多い環境だと、絶対足を引っ張られて傷だらけになったり失脚したりするんだろうな…どこに種をまいて自分を育てていくかも大事なんだろうな… 今って悪意のデマを信じてプロパガンダに励む人がとても多い時代なので、そういったものからどうすれば自分を守れるかも、この本にプラスして必須になってるような気がします。

 

片岡義男「英語で日本語を考える 単語篇」1091冊目

この本には「英語で日本語を考える」本編があって、これは続編のようです。これは初版2001年で本編は2000年発売なんだけど、その本編のほうだけ 2024年8月に再発売されています。そっちを読みたいなと思っていたら、これを見つけたので先に読んでみました。

片岡義男といえば、「スローなブギにしてくれ」の人、というイメージ。初めてWikipediaを見てみたら、本人は日本で生まれ育っているけど祖父がハワイ移住、父は日系二世、という英語に囲まれた環境で育った人なんですね。だからか…この本では、よく使う日本語表現を英語にしたら、こんなに語感が違う表現になる!というのを200例取り上げて解説してるのですが、ラジオ英語講座の講師が書いてるみたいに自然。

今読むと、「それくらいなら、もうみんな英語訳を知ってるかも」と思う語も多いけど、なにしろ23年も前の本なので、その後ことばのほうが変わっていても当然。そういう語を見つけるのも面白いんですよね。

私は英語はもう、旅行したときの日常会話でしか使う機会もないので、中級?止まりでいいや、と学習をやめちゃっていますが、スペイン語ベトナム語をすこし勉強していたり、日本語を教えたりしているので、言語を考えるうえでも、この本はすごく面白かったです。私の生徒が読んだらどう感じるかな…と思ったりして。日本語でこの本を読めたら、すでにかなりの日本語力だけど、英語とのニュアンスの比較を見て、なんとなくでもわかるようになってくれたらなー、なんて…。

順番が逆になったけど、続いて本編も読んでみます。

 

朝比奈秋「サンショウウオの四十九日」1090冊目

これは紙で読みました。単行本ではなく、新潮の2024年5月号。

これ読んで、同じ芥川賞を受賞したばかりの「ハンチバック」を思い出す人は多いんじゃないかな。私は「すこしちがう人」への関心が強いほうだと思うので、両方とも食い入るように読みましたが、こちらのほうがSF感が強いです。

さまざまな形態の、”正常”ではない赤ちゃんたちを描いた作品として、まず思いついたのはブラックジャックピノコでした。彼女は、この小説の中では”きょうだいや母に吸収されてしまって”嚢胞となったほうの胎児であったところを、ブラックジャックの驚異の技によって縫い合わされて、人間の女の子になった、やはりかなりSF的なキャラクターでした。医師という仕事をするなかで、生死や病気、人間の身体の不思議さや不条理さに気づいてしまったり、考えることをやめられなくなったりすることって、きっとたくさんあるんだろうなと想像します。

ベトちゃんドクちゃんという、すごく有名な結合双生児のことがよく報道されていた頃は、彼らの身体はどうなっているんだろうと考えることもあったけど、ここ何年も、結合双生児のことが意識に上ることはありませんでした。このほかにもまだ、文学として書かれるべきテーマってたくさんあるんだろうな。

面白かったし、登場人物たちの不完全さや自然さに共感も持てました。他の作品も読んでみようと思います。

 

伊藤計劃「ハーモニー」1089冊目

虐殺器官」を読んでから3年。やっとこれも読み…じゃなくて聴きました。

これが面白いんですよ、主な登場人物は少女たちなのにナレーターは男性。最初は男性のキャラクターかなと思うけど、ちゃんと聞いていれば女の子たちだとわかります。それにしてもなぜ女性に読ませなかったんだろう?それは多分、全体の骨組みとなっているチャプター名がコンピュータープログラムのコードというかHTMLタグのような形で記述されているのですが、これを男声で読ませた方が全体の雰囲気がこの小説に合うからじゃないかな。

カッコ、なんとかイコール英単語、カッコ閉じ、…が延々と続くところもある。聞きづらいけど、どの部分に重要な情報が入ってるかわかってきてからは、カッコとかじゃなくてキーワードを拾うようにして聞ける。人間臭さの対極、という風味が楽しめる。

さすがに、主役の少女たちの名前は、キリエ トアンと、ミヒエ ミアハと、レイカドウ キアン。正確に聴きとれる。苗字と名前の切れ目もわかる。音がおもしろい名前だな、日本の名前だろうか?レイカドウだけはたぶん「堂」で終わるんだろうな、と思う。これが霧慧 トァン、御冷 ミァハ、零下堂 キアン、しかも前の二人の「ア」は小さい、ということは、聞き終わって文字で見るときのお楽しみだ。むしろ紙で読んだら、苗字の読みをすぐに忘れて、何度も何度も冒頭に戻って確認するかもしれない、忘れたまま読み進んだかもしれない。

ストーリーは少女たちの自殺、という、何度か映画とかで取り上げられたテーマから始まるけど、彼女たちの中の「悪」を展開していくのが面白い。機械的vs人間的、現代vs完全な管理社会、戦争vs平和など、鋭く普遍的なテーマをどんどん掘り下げていって、ある極端な帰結をみるんだけど、それがまた不快ではないし、ひとつの結論としてありうる、と思える。

ほんとに力と知性のある作家だったんだな。これも、日本のSFを読む人ならぜひ一度読んでおきたい力作だと思います。

 

森本萌乃「あすは起業日!」1088冊目

これもAudible。紙で読むつもりでリストに入れてたのを、見たらAudibleにあったので聞いてみました。これもAudibleに向いてるコンテンツだと思います。若い女性が書いた半フィクションくらいの小説を、主人公・著者のような若い女性(たぶん)が読むのは、リアルに聞こえて、みずみずしくて、心地よいです。

起業、しようかと考えてみたことは何度もあります。社会人向けのビジネススクールに通ったときは、起業する人やしたい人がたくさんいたし(私に起業しろとけしかける人もちらほら)。でも、私には、会社を作ってまでやりたいことがなかった。私は何をするにも、自分ひとりでやって完結することが多い。楽しいからみんなもやろうよ!という、巻き込む力が弱い。だから、よかろうと悪かろうと、起業する人のまっすぐさに憧れます。

てことで、起業するときにどういう知識やお金が必要だとか、どうやって調達する、ってことは、昔の男の人たちの経験談はいくつも聴いてたけど、若い女性…万が一私が会の頃起業していたら近かったかもしれない…の経験のリアルさは読みごたえがありました。ベンチャーキャピタルの男性が自分を女性として見る、なんて話は、男性の書いた本ではまずないですから。

ところで、ベンチャーの最終目的のひとつに「Exit plan」みたいな言葉があると思うんだけど、スペイン語でexitoって成功のことなんですって。自分の作った会社の株を公開するか、M&Aしてもらって手放すか、というのは「出口」でもあり「成功」でもあるんだろうな。この小説では、未来のExit planまで想像して書かれているけど、実際の著者のサービスはどうなっていくんだろうな。5つ星ホテルに泊まっても泊まらなくても、たぶん素敵な人生なんじゃないかなーと思います。

「本当にやりたいこと」をやるのはとても幸せだけど、だいたいはお金からは遠ざかっていく気がします。私みたいに、若い頃はがまんだけして少しはお金をためて、年を取ってからはギリギリあるいはちょい赤字の収支で、やりたい仕事だけやる、という人生も、そう悪くはないもんですよ。

 

鳥飼否宇「死と砂時計」1087冊目

これもどこかで推薦されてた本。架空の砂漠の国の、死刑判決を受けた人だけを収監した刑務所を舞台としたミステリーです。連作集の形をとっています。

もれなく死が待っているというシチュエーションで、場所や時間、道具立てには相当の制限があるのに、かなり自由な発想で書かれているので、最後に必ず「そう来るのか!」という驚きあり。納得感があったとは必ずしもいえないけど、面白かったです。

 

麻月りお「イケメン王子がいる水没寸前の王国で、日本語を教えることになりました!」1086冊目

日本語教師の方が書かれたとのことで、読んでみました。面白かった(笑)

ベタといえばベタな、”ふつうの私が王子様と”ストーリーだけど、水没寸前の遠い島国からのイケメン王子ってのが、なさそうでありそうで、なんとなく危機感を持って読んでしまうし、いい目の付け所だ!と思います。

日本語教師が、ちゃんと授業に来ない生徒にやきもきする感じや、志たかく、困っている生徒に頼まれるとがんばっちゃう感じも、”あるある”かもしれません。

これがデビュー作なのかな。面白いものを書かれる人だと思うので、日本語教師シリーズもっと書いてみてくれたらなーと思います。(今回の主人公の同僚とか。)

私はこの登場人物たちの親くらい(もっと上か!)なので、ああ若くて可愛い先生ならこれもあるかも、ないかも、と思いながら読みましたが、別の年代の他の先生の経験なんかも、いろいろ読んでみたいです。