伊与原新「宙わたる教室」1071冊目

面白かったし、しみじみといい作品だなぁと思いました。定時制高校が舞台で、バラバラな生徒たちが負けるもんかと研究を重ねる、という筋には、感情的になりすぎる大きなリスクもあります。かわいそう、感動した、というだけでなく、シニカルだったり照れたりするリアルな人間像が感じられて、ほっとした感じもあります。

作者はすごく細やかに人を見て、外から見つけにくい美点を捉えてくれている。これに登場する理科教師は、「食えないやつ」と同僚に言われたりする、ちょっと策士な秀才だけど、登場人物のなかで一番の正義漢だったりもする。金髪の不良少年も、リスカを繰り返す繊細すぎる少女も、フィリピンルーツを持つおばちゃんも、叩き上げの工場長も、まったく美化していないのにだんだん愛しく思えてくる。

安易な感動を避ける努力を惜しまなかった作品、と言えるのかもしれません。(めちゃくちゃいい意味で)その努力に敬意を表したいし、そういう書き手なので、他の作品の舞台は全く違うところにあるのかも、と期待もふくらみます。引き続き、読み続けていきたい作家さんです。

 

降田天「少女マクベス」1070冊目

面白かったー!忙しいけど夜更かし+早起きして、一気に読んでしまいました。

事前知識がほとんどなかったので、オカルトっぽいのかな?とか、イヤミス系かしら、とか、ちょっと心配しながら読み始めましたが、ミステリーとしてまっすぐ王道で、かつ、登場人物の性格や姿かたちが本の間から生き生きと立ち上ってきて、とても魅力的でした。

マクベス」は原作を読んだことはないけど、翻案作品は舞台などで何度か見たことがあって、憎しみや強欲、悪、犯罪、などかなりおどろおどろしい作品だと認識しています。この作品の中にも、華やかで美しい少女たちの隠れた闇や愛憎が描かれてるんだけど、それだけに終わらない。彼女たちの繊細さ、少女らしいやわらかさが全体では浮かび上がってきて美しい物語だったな、という印象が残ります。

しかしこの「百花演劇学校」、宝塚のようで宝塚じゃないのは、演者だけじゃなくて制作者も含めて育成する学校だというところですね。それと、年齢制限が厳しいと言う設定なのか、ほぼ高校生の年齢の子ばかりに見える。高校生にしては、みんなあまりにも大人びているけど、目指すものが大きく、早く一人前になろうとしてプロのように振舞っているからかな。

舞台が少女たちの学校でなければ、どんな物語を書くんだろう。「このミステリーがすごい!」大賞受賞は9年も前だけど、それも読まずにはいられません。最近こうやって、今まで読む機会がなかった比較的(たぶん)若い作家さんに次々に出会えるのはすごく幸せなことだなぁ。

 

新川帆立「先祖探偵」1069冊目

この人ほんと強力な書き手だなぁ。どれ読んでもすごく面白いし、この本は1冊の中にコミカルさも、ミステリーも、歴史もロマンも女の人生も詰まってる。日本の歴史の負の側面も垣間見えてくる。本としての完成度高い。

「先祖探偵」はつまり、「あなたのご先祖お探しします」という調査サービスで、捨て子として育った若い女性がその仕事を次から次へと片付け、その中でやがて自分自身の出自についても知ることになる・・・というのが大筋。

だいいち「先祖探偵」というネーミングだけで目を引くし、ちょっとクールなこの女性が徐々に心を動かされていくのが自分のことのように感じられて、ストーリーテリングも非常に強力。

読んでみてよかったです。またこの人の本読もう。

 

新川帆立「剣持麗子のワンナイト推理」1068冊目

この人の「元彼の遺言状」を読んだ気でいたけど、多分、綾瀬はるか主演のTVドラマを見ただけだった。あれ面白かったんだ、彼女とバイト青年との関係性とか。

この作品でも、女性弁護士 剣持麗子が拾ってきた黒丑という青年の存在感が、イケメンでしっかり者なのにちょっと素性が知れなくて気になる。とにかく、ギリギリ、無理!とならないていどに意表をつく展開で、どんどん読ませるんですよね。

行間から立ち上がるような生々しい人物像は、あまり感じない…登場人物の姿は顔のない姿かたちのままだけど、みんな縦横無尽に動き続けていて、それを追っかけるのが楽しくてたまらない。という読書体験でした、私は。

「元彼」とこれの間にもう一冊あったらしい。順番間違えた。で、剣持麗子ではない連作集をいま手にしているので、そっちから読みます。

 

厚切りジェイソン「かなり気になる日本語」1067冊目

「お金の増やし方」もだけど、この本も”なるほど””そうだよな”の多い本でした。私は本を読むほうの人間なので、知ってることも多いけど、まっとうで率直な、外から見て気づいたことが書かれていて、この人ほんとまじめだなぁと思いました。

お笑いはそのうちやめて、本業に近いことでもっと表に出て来るのかもな。と思います。

 

鶴長鎮一「Web技術がこれ一冊でしっかりわかる教科書」1066冊目

もうITに関わる仕事をすることはないと思ってたけど、ちょっと関係がでてきそうなので、15年も前に後にしたこの業界のことを今いっしょうけんめい思い出そうとしています。で、まずはこの本。

この業界でまた働こう!という必要がないので、気楽にぱらぱらとめくって、用語をたどる…これってどういう意味だっけ。それは何の略?……と記憶をたどる。なるほど、なるほど。短期間だけどWebコンテンツを管理する仕事をしたので、この本に書いてあることはだいたい(ぼんやりと)理解できた気がします。さて、このあとはもっとインフラに近い難しそうな本もパラパラ見てみよう。

 

 

水見はがね「朝からブルマンの男」1065冊目

Audibleで推してたので聞いてみました。面白かった。

ある喫茶店で、開店とともに入ってきて毎週ブルマン=ブルーマウンテン、どこの店でも一番、とんでもなく高価なコーヒーの銘柄を注文する男がいる。なのに、毎回貴重なブルマンを一口飲んだだけで残す。店でバイトしている学生がその理由をいぶかる。…学生ミステリーでありながら、謎解き、暗号の要素もあっていろいろ楽しい作品です。

謎は、長年ミステリーを読んでいれば解ける人も多いかも。でもそれで魅力が減るということもなさそう。こういう読後感さわやかな作品は、どんどん書いてほしいですね。