井上先斗「バッドフレンド・ライク・ミー」1114冊目

デビュー作「イッツ・ダ・ボム」が面白かったので第二作をさっそく買って読んでみました。あっという間に読了。新刊をすぐ買うことはあまり多くないほうだけど、今日久しぶりに新宿東口の紀伊國屋書店本店に行ったら、パラダイスのような素晴らしい書店になっていてあまりに感激して、2冊も買ってしまいましたよ。一時期、似非科学本ばっかり積んでた時期があったような記憶があって、あえて素通りするようになってもう何年もたっていたけど、たまたま通りがかってよかったです。

こんどは”ホスト崩れ”の青年が、さらに落ちていくのか?という設定で始まります。ふつうの人に誰でもある見栄が増長していくのが彼の特徴かもしれません。大学を辞めたのは起業したからで…それがうまくいかなくなって知り合いのところで働いて…などというウソを次から次へと繰り出します。やればやるほど回収不能になっていくことや、自分で自分をおとしめている、ということには無自覚です。

しかしこの著者の描く主人公は、そこでぼんやりと絶望したりしません。再会した素敵な女性の愛ある励ましに押され、彼は自分が巻き込まれた大きな事件を観察し、分析し、謎に迫っていきます。このリアルで丁寧な謎解きのプロセスが、ちょっとヒヤヒヤするけど、読んでてとても気持ちいい。前作から期待したものがちゃんとありました。

ああ、まだまだ本が読みたい。今日買わなかったあの本も、この本も読みたい。目が乾いて痛いけど。これを読書の沼って呼ぶんですか…。

 

 

伊坂幸太郎「ペッパーズ・ゴースト」1113冊目

面白かった。400ページ近いのに、あっという間に読めました。

この人の作品のなかの「悪」は、十分ほんとうに悪いんだけど、あまり底恐ろしくなくて、最後までエンタメ気分で楽しめる。だからここまで人気があるんだろうな、きっと。…いやでも村上春樹みたいな純粋な悪を描き続けて世界的に人気の作家がいるか。多分、違うのは読んでる人がそれほど重く感じずに読める感覚なのかな。

映画「ブレット・トレイン」の印象はとても強かった。あれを日本で映画化してたら、見覚えのある、普通の日本人の代表のようなキャスティングで、面白くて身近な作品になっただろうけど、ハリウッドが大枚はたいてブラピやアーロン・テイラー・ジョンソンやマイケル・シャノンで作ったもんだから、インパクト最強のスラップスティックができあがりました。あれとの共通点がいろいろあるなと感じながら、この作品を読みました。まぬけな悪党、ミカンとレモンに対してロシアンブルとアメショー。無垢なようでいて悪辣な女性。改めて、伊坂作品をあれくらい拡大解釈して爆発させる映画も作れちゃうんだよな、そのアイデアってなかなかすごいな、と思います。

 

高野秀行「酒を主食とする人々」1112冊目

タイトルを見たとき、これは比喩的表現であって高野氏が自分自身や酒好きの気のおけない仲間たちのことを書いた本かしらと思いました。一瞬だけ。でも本当に、”酒を主食”というか副菜もほとんどなく、ある種のアルコール飲料をほとんど唯一の栄養源として、たくましく育って健康に暮らしている人たちが実在するようです。しかもエチオピアなんだ。私の好きなコーヒーの産地じゃないですか。(現地の人たちはコーヒー豆は輸出するので飲まないらしい)

このどろっとした飲み物。作り方は詳しく書かれていますが、原料となる植物がどういうものかまったく想像がつかないので結局何も頭に入りません。ただ、主食のその飲み物の形状はバナナジュースのようで、蒸留酒を想像すると、それとはまるで違っています。強いていえば「どぶろく」や「甘酒」のような。もっと広げると、最近あまり見ないけどカロリーメイトの缶入りの飲み物のほうにも似ています。そう考えると、そのアルコール飲料が「総合栄養食(アルコール入り)」であるとみなすのも無理ではないかもしれません。マドレーヌとかマカロンとか、焼き菓子を買ってくると個包装にアルコール粉末の小袋が入っていて、それで品質保持をしていることがあります。冷蔵することなく保存でき、持ち運びも簡単、水で割って飲むだけというそれが、アルコールによって保存性を高めた総合栄養食だと言い切ってもいい気がしてきました。

ぜひともそれをそのまま持ち帰って、栄養分析をしてみてほしいです。なんなら原材料の植物を輸入して、同じ製法でアルコール飲料を作ったあとでアルコールだけ飛ばして、缶詰にしてカロリーメイトの隣で売ってほしい。というかただ飲んでみたい。私はおいしいものを食べるのが好きだけど、自分で調理したくないこともあるので、家に何本か買い置きしていつでも飲めるようにしたい。…でも生まれ育ちが違うので、日本に住む私には総合栄養食として消化吸収されないかもしれないな…。

それにしても今回も面白かった。人間の集団って、深く細かく観察すると、たぶんどんな人たちでも面白いんじゃないだろうか。はるか彼方の不思議な慣習で暮らす人たちが、やがてお隣さんのように思えてくるこの人の本がほんとに好きです。

 

川添愛・ふかわりょう「日本語界隈」1111冊目

面白かった!やっぱり私は言語が好きだし日本語の奥深さ、めんどくささ、つじつまの合わなさ、そういう色々が大好きなのだ。

日本語教育界隈」ではなくて「日本語界隈」なので、教育者や研究者の内輪ネタではなくて、日本語を母語としていて言語に深い興味を持つあらゆる人たちに、共感できる内容だと思います。たとえばふかわりょう、お笑いもパントマイム以外は言語要素がとてもとても大きい芸術です。研究者である川添愛ももちろんそうだし、日々外国語話者からの質問に答えられず右往左往している日本語教育者もみんな大きくうなずきながら読むに違いありません。「辞書で呑む」というテレ東の番組が大好きなのですが、あの出演者もみんな楽しんで読みそう。

こういう本ならなんぼでも読みたいので、「続」とか「続々」とか「新」とかどんどん出してほしいです。

それにつけても、最後の小説の中で最後に入店して焼きおにぎりを注文する、モデルじゃなくてポージングの女性の正体は何なんだろう。きっと「忖度」や「貴様」同様、文中に登場してるはずなんだけどな・・・。何か見落としてるのか、根本的に趣旨を理解できてないのか。。。。

 

星新一「ノックの音が」1110冊目

先日、池袋の梟書茶房という素敵なカフェで、コーヒー&本を選んでくれるという夢のようなイベントがあったので参加してきました。私が選んでほしい本は「本を読まない人に勧められる本」。で選んでくださった2冊のうち1冊がこれです。

星新一ショートショートかぁ、絶対面白いし全部とても短いので、これなら確かに勧められる!同じ内容を映像にしても音声ドラマにしても面白いけど、文字で読むことでめいめい勝手に情景を頭に思い浮かべられて、普段文字をあまり読まない人なら私とは違うカラフルな世界が広がるのかもしれません。

星新一の短篇集を読みまくっていたのは、たぶん高校生の頃?”学級文庫”的に、誰かが読み終わった本を教室の後ろに並べていて、私もかたっぱしから読ませてもらいました。当時もあまりの面白さに感動したけど、今読んでも同じ感動があります。(※ストーリー全部忘れてる、でもよかった)(いやもしかしたらこの本は未読?「ボッコちゃん」や「おーい出てこい」はくっきりと覚えてるもんな)

改めて言います。この本は、古今東西どんな人にもお勧めできる名作です。これほどの短編の書き手は世界中探してもそんなにいないんじゃないかな~。

 

安藤ホセ「デートピア」1109冊目

すごく魅力的な小説です。とても面白い。外国の小説のようでもないけど、見慣れた日本語の小説と感触が違います。この感じを「無国籍」と書くことが今はなんか安易で雑に思えますが。

前半はエンタメ的に面白く読み進んだけど、モモが出てきてからは、少年犯罪小説となって、テラスハウス的な世界よりもさらに自分から遠くなっていきます。

これを読んでいるときの気持ちは、「蛇にピアス」を読んでたときと似てます。それほど”いい子”でもなかった自分が何一つ知らなかった、道を一本入ったところに、肉体を傷つけたがる人たちがいるという怖さ。刃物を自分の肌に当てられて、鉄くさい血がしみだしてきそうな。

という感じで、私には前半と後半が別の小説のように見えてしまうんです。つながりがあることはわかるけど、短篇集の2編を読んでるような。で、正体がぜんぜんつかめないまま終わってしまった。何だったんだろう。

このあとこの作家がどういうものを書き続けていくのか、とても気になります。(ふしぎと、すでに書いたものより今後のが読みたい)

 

「時ひらく」1108冊目

そうそうたる人気作家たちによる、日本橋三越をめぐる6つの短篇集。なんとなく「青い壺」みたいなのを想像してたけど、デパートが各著者にとってどういう場所か?がベースにあるので、もっとキラキラとしたなつかしさや感動のある、予想を超える面白さの本でした。

自分にとってデパートって、小さい頃は本当に夢の場所で、(三越でも東京でもないけど)高い洋服を買ったことはないけど、やっぱり大食堂があってお子様ランチがあって、で、私の時代にはサンリオコーナーがあって、100円の「いちごしんぶん」だけは自分のおこづかいでも買えて。さらに三越にはやたら立派なライオン像やその伝説があったり、巨大な天女像があったりもする。無料で入れるテーマパークって書いてた人がいたけど、そんな風に思ってたなと思います。

辻村深月「思い出エレベーター」

子どもの頃の自分に出会える?デパートは家族の幸せな思い出。

伊坂幸太郎「Have a nice day!」

SFファンタジーになってる!伝説ってやっぱりすてき。

阿川佐和子「雨あがりに」

館内放送担当女性の今昔。

恩田陸「アニバーサリー」

いぬと天女とパイプオルガンのちょっとした小話。

柚木麻子「七階から愛をこめて」

遺書とカードとパイプオルガンに魔法がかかる。

東野圭吾「重命る」

この小説の中の三越がいちばん、三越でなくてもよさそうだけど、とても寝られた面白い犯罪ミステリーでした。

なんか、昔デパートの地下のお菓子売り場(「デパ地下」という言葉がない頃)で素敵な詰め合わせを買って家で開けて大喜び、みたいな、なかなか贅沢な一冊でした。旅とか通勤とか、ちょっとした時間に読むのもよさそうです。