窪美澄「給水塔から見た虹は」1233冊目

難民三世のベトナム人少年と、外国人支援活動を自主的にやっている母を持つ日本人の少女。そこに「元」技能実習生たちがからんできて、日本の今のさまざまな問題を反映しています。

外国人忌避傾向のある人たちの中には、自国民の、特にエリートにだけ囲まれて育ってきて異質なものを劣ったものと認識する人たちのほかに、外国人の多い環境でトラブルをたくさん経験してきた人もいるんだな、と思いました。誰かが困っていると聞くと、自分に何かできないかとすっ飛んでいくお人よしの人たちは、どのグループからも自然発生するのですが(NPOや日本語教育にばかり関わってるとこのジャンルの仲間が増える)、忌避傾向の人たちとお人よしの人たちの考え方には、なかなかわかりあえない、交じり合えないギャップが存在するとこの歳になって気づく場面もあります。

エリート志向というと悪い意味に見えるけど、日本のさまざまな芸術や手工芸は、趣味をつきつめて生まれたもので、鋭い審美眼を持つ人から見れば、自分の命ともいえる審美眼がわからない人たちは忌避したいかもしれない。

昔友だちに、「あなたは人の欠落を愛するところがある。それでは幸せになれない」と言われたことがあって、何十年もたった今もときどき思い出すんだけど、彼女から欠落にしか見えないものが私にはバリエーションの豊かさに見えていたし、今もそういう逸脱をこそ大事にする考えが自分にはあると思います。

生き方から生まれてきた価値観を誰かの利害のために変えさせることは、難しいというか、できないのかもしれない。審美眼が命の人は、外国人が切磋琢磨の末にその人の審美眼にかなうものを生む、おめがねにかなう人になった途端、完全な仲間として扱い始めるのかもしれない。そうなることを期待してるのかもしれない。まあ、そういうケースはあまり多くないと思うけど。

私は欠落と自由と逸脱を愛するほうの人間だけど、つきつめたアートの、その最終作品だけを美術館で見て愛でることがある。作品を生み出すまでの40年50年の純粋主義まで理解してるわけじゃなくて果実だけを安く味わってる。アーティストから見たら、実にいい加減で腹立たしい鑑賞者かもしれない。

どの立場にある人も、自分と違う人たちのことを理解したり共感したりするのは本当に難しい。表面的にではなく、本質的な理解や共感を目指すと、難しさが身に染みる。ただ、今どんなトラブルが起こっているかを知ることや、自分と違う人たちの歴史を考える時間を持つのは少しは思いやりにつながると思う。そういう意味で、安易なおとしどころを与えようとしないこの小説はとても誠実だと思いました。

坂本湾「BOXBOXBOXBOX」1232冊目

自分のものでない箱の中身。気になる気持ち、少しわかる。あまりにも単調な繰り返し作業をぶち壊してみたらどうなるだろう、と思う気持ちもわかる。だから、ストーリーの軸がよくわからないこの小説は、感覚だけでするすると読めます。小説なんだけど、詩みたいな気もするし、短い映像ならこのくらいのストーリー感のものもあるんじゃないかな。論理的な文章なのに、論理を追って読むと途方に暮れそう。すごく感想を書きにくいけど、もう少しこの人の作品を読んでみたいなと思います。

BOXBOXBOXBOX

BOXBOXBOXBOX

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森バジル「探偵小石は恋しない」1231冊目

”本格推理”っていうジャンルは玄人向け、本をたくさん読みこんだ人もうなる名作、というイメージがあるけど、人間心理をぜんぜん気にしないでトリックだけにものすごく注力して書かれたものが多いと感じています。この本の場合、それよりもっと人間心理から遠く、本格的なトリックからも遠く、実現可能性とも遠いところで、現実的に見える部分も多いけどむしろファンタジー小説のジャンルなのかも、と思います。楽しく読み始めてどんどん読み進めたけど、私が「ミステリー」にイメージするものから遠くなりすぎて、中盤からすーっと気持ちが冷めてしまいました。

あらゆる作品は、たくさん楽しんだ読者が勝ちなので、盛り上がって楽しんだ人たちを否定する気持ちは全然ないのですが、これからこの人の作品を読むときはちょっと違う心構えで読もうと思います。

金子玲介「クイーンと殺人とアリス」1230冊目

この人の新作は欠かさず読むようにしてます。少年少女の痛切な思いを叫びだすような部分があったり、それを温かく包む視点があったりする、と思っているので。

そこをベースにすると、この作品はそれよりもパズルとして娯楽で書いたものなのかな、と思います。「謎解き脱出ゲーム」みたいな。以前から謎解き要素のある作品を書く人だと思いますが、私は多分この人の書く少年たちが好きなんだと思います。同性だからか?、この作品の中の女の子たちにはあまり感情移入できなかったな…。

引き続き、次回作を楽しみにしています。

 

野崎まど「小説」1229冊目

大胆不敵なタイトル。著者名がありきたりじゃないので、検索のときはまず著者名からだなぁ。

感想をいうと、すごく面白かった。最後まで一気に読ませる力があって、小説という世界の奥深さを広げて見せてくれた、という満足感も感じられて、読み終わった瞬間大きなため息をつきました。

個人的な好みをいうと、狭い人間関係のなかでオチをつけようとせず、未知の世界へ開いた形で終わっていったほうが好きかも。逆にいうと、この本はこの著者の完全に個人的な完結した「小説」の世界として成立していて、小説を愛するすべての人に、文字化するかどうかにかかわらず、このような広くて深い世界が存在するんだろうな、とも思います。(私の世界はこんなに一貫してないし、世界といえるほどのものはないな)

ここまで書ききった小説愛の深さに拍手を送りたいです。

小説

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王谷晶「父の回数」1228冊目

ぴりっとくる短篇を集めた作品集。連作というより、1つ1つが全く独立していて、それぞれを膨らませて長編が書けそうな新鮮な内容です。

特にこの表題作。本物の父と育ての父。(「回数」が何を意味するかは最後までわからなかったんだけど、何の回数だったんだろう)この作品すごく痛くて心に残ります。女性二人が登場する「おねえちゃんの儀」などは、他の作品にもそういうシチュエーションがあったなと思うけど、この短編集は家族、男女、バディというほどでもないあまり話したことない同性の同僚、とシチュエーションにバリエーションがあります。バイオレンスもなく敵対関係もほぼなく、日常的で普遍的な人間を描きあげています。何を書いてもうまいなぁ。不安や戸惑いもあるけど、弱いだけじゃない人間が浮かび上がってきて、じわじわと共感がわいてきます。自分と同じ、あるいは、自分とは違う、仲良くはならないかもしれないけど、思い出すときにちょっと心がきゅっとする昔のクラスメイトみたいな感じ。

「ババヤガ」みたいな爆発力のある作品もまた読んでみたいな。次はどういうものを書くんだろうな…。

父の回数

父の回数

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楳図かずお「14歳」1215~1227冊目

「わたしは真悟」に続いて、未読の楳図かずおの傑作を全巻読み。「真悟」より後、巨匠最後の大作です。文庫本でも13冊。

培養肉の池から突然変異として発生したチキン・ジョージは、天才?悪魔?それとも神?その出自を考えると人間を憎むのも無理はない。(この名前の出どころは「ルーツ」のクンタ・キンテの孫らしい)

「真悟」もスケールが相当大きいけど、二人の子どもの話とも言えます。一方「14歳」は地球というか宇宙全体の存続にかかわる壮大な物語。中心となる人物(大人たち、おもに主要各国の首脳、とその幼い子どもたち)が限られているとはいえ、エヴァンゲリオンよりずっと幼い2歳前後の子どもたちが訓練を受けて戦い、ときに斃れるというのは大胆にも重くも感じられます。

2026年の今これを読むと、日米の首脳の人格が立派すぎて、ちょっとピンとこないかな…。こんな首長だったらよかったなぁ、という楳図先生の思いなのかな。地球の危機に際して、国どうしでケンカしてる場合じゃない、どうやって子どもたちを生き延びさせるかということに集中できなければダメだ、という思いが強いんだろうなと思います。

とか書いてて、いま初めて、2012年に描きおろしの”真の結末”を含むUMEZZ Perfectionという版が出ていたことを知りました。読みたい…困ったな…最終巻だけ買うか…。