ホルヘ・ルイス・ボルヘス「ボルヘスとわたし」973冊目

ボルヘスの短編集は何冊か読んでるけど、このタイトルになっている短編「ボルヘスとわたし」が読みたくて借りてきました。あまり他の短編は読んでないけど、今回はこれでいったん返却予定。 どうしてもこれが読みたかったのは、以下のように連なって現れてき…

NHK放送文化研究所「NHKが悩む日本語」972冊目

面白かった。辞書を編纂している飯間浩明のツイートや文章と比べると、従来の”正しい日本語”を守る傾向が強い、保守的な印象。飯間氏の仕事は「わからない言葉を調べるための書物」を作ることで、NHK文研の仕事は「だいたいの人がわかり、自然と感じる言語を…

小川哲「地図と拳」971冊目

大河ドラマだった~~。 満州国っていう、日本の中枢にいた昔の人が勝手に夢みた国の歴史をたぐり、こんなことやあんなことがあったんじゃないかと想像して書かれた物語だった。 数々の窮地を逃れてきた主人公が、ふいに没する場面がちょくちょくある。年代…

頭木弘樹「NHKラジオ深夜便 絶望名言」970冊目

この本は素晴らしい! 世の中って、なにかネガティブっぽいことを言うことがタブーのような”空気”が強くて、そうなると常にポジティブであれという重圧に耐えて笑い続けなければならなくて、もう生きていること自体が辛くなっていく、というおそろしい悪循環…

大江健三郎「水死」969冊目

すごく面白かった。と書くと、最新のブログや動画が面白かったのと区別のつかない貧しい表現になってしまうけど、気軽に読み始めたのに謎の要素やストーリーの先が気になって、続きを読みたいから早く帰宅する。厚い本だけど、電車やバスに持って乗る。 一目…

坂口安吾「不連続殺人事件」968冊目

坂口安吾は「堕落論」の人、という印象が強かったけど、日本屈指のミステリーを書いていた!という話を聞いて、ワクワクしながら読みました。 戦後すぐの日本の文壇は、こんなに乱れていたのか・・・?と思うほど、異常に入り乱れた愛憎関係。それがとある山…

山口雅也「奇偶」967冊目

(ネタバレ?あります) あえてミステリーではなくSF枠で登録します。これはなかなか難解というか、難しい言葉をたくさん使っているけれど、要は量子力学(01ではなくその間のどこかに存在する)とかシュレディンガーの猫という問題をぶわっと膨らませて、ボ…

ジョン・アップダイク「アップダイクと私」966冊目

ニコルソン・ベイカーの「U&I(アップダイクと私)」を読んで、そこから本物のアップダイクに来た。(これにもおおもとの「ボルヘスと私」があるとは知らなかった。読まなければ!) これエッセイと書評を集めた本で、「アップダイクと私」は、作家として注…

レンタルなんもしない人「レンタルなんもしない人というサービスをはじめます」965冊目

これも読んだ。ずっとTwitterをフォローしているので既視感があるけど、ときどきレンタルさんの家族のことなど、知らなかった情報もあります。 受検は、なにかのゲームにムキになるみたいにがんばった記憶があるけど、就職や転職活動は私も心底イヤだった。…

タラス・シェフチェンコ「コブザール」964冊目

不思議なことに、表紙にも目次にも作品解説にも、シェフチェンコのファーストネームが出てこなくて、年譜のページにやっと登場する。それくらい、シェフチェンコといえばこの人なんだろうな。ウクライナの偉人として広く尊敬されているらしい、画家で詩人の…

青山美智子「赤と青とエスキース」963冊目

これもだいぶ前に「一万円選書」で選んでいただいた本。 こんな人生があったらな・・・と想像して書かれたファンタジーだと思うけど、童話みたいに「若い二人は結ばれました、めでたしめでたし」ではなくて、紆余曲折もあり、なぜか二人は結婚せず子どもも持…

綾辻行人・歌野晶午・法月綸太郎・有栖川有栖・我孫子武丸・山口雅也・麻耶雄嵩「7人の名探偵」962冊目

面白かった・・・どれも面白かったのに、頭から最後まで読み終えた今、「ぬえの密室」のことで頭がいっぱいになっている。他の小説のことは全部抜け落ちてしまった。この本当っぽい短編、すべて実在する登場人物たち、いったいこの短編(のアイデア)は存在…

レンタルなんもしない人「レンタルなんもしない人のもっとなんもしなかった話」961冊目

この続編が出ると聞いて、そういえばこの2冊目読んでなかったと思って読んでみました。やっぱり面白いな~ この頃からTwitterをフォローしてて、ドラマ化されたときもドラマと並行してツイートを読んでたので、臨場感あります。でも見てなかったネタも多い(…

吾妻ひでお「失踪日記」960冊目

「ルポ路上生活」の中で何度も言及されていたので、これも読んでみました。吾妻ひでおの描く女の子ってすごく可愛いなと子ども心に思ってたけど、ちょっとお下品系のエッチなマンガや、逆にすごくとんがったSFはまだ理解できなくて、普通の学園ものとかずっ…

芸術新潮2023年5月号「追悼総力特集 坂本龍一」959冊目

雑誌の感想を書くのも変なかんじですが・・・この特集は素晴らしかったです。編集者も寄稿者も祈りを込めて作っていたと思うので、この特集が「追悼特集」となってしまったときの落胆や悲しみまで見えてくるようです。 アート関連の雑誌って「美術手帖」とか…

「山口雅也の本格ミステリー・アンソロジー」958冊目

この本って・・・本物の暖炉がある、昔ながらの居心地のいいホテルの談話室みたいだ。ホテルの経営者と職員とで長年丁寧にメンテしてきて、そういうのが好きなお客さんしか来ない。そこに集う人たちには暗黙の了解があって、ずっと守られている暖かい親密さ…

國友公司「ルポ路上生活」957冊目

すごく面白かった。考えさせられたというより、自分の物差しが一瞬グラっとした。それと、この実験は誰かがやってみる必要があったので、やってくれて本当に感謝するし、この経験は広くいろんな人に見てほしいと思う。 特に、路上にいる人たちを怖いと思って…

呉勝浩「爆弾」956冊目

読ませるね~~、さすが「このミス」1位。 リアリティとか考える隙を与えず、とにかく先を急がせる。夕方から夜中にかけて一気に読み上げてしまいました。爆弾の詳細や設置方法を饒舌に語ったりしないところがいいんじゃないかな。最近のエンタメ小説は科学…

朝吹真理子「きことわ」955冊目

日曜美術館を見ていたらこの著者がマティス展で感想を述べていて、そういえばこの人の本を読んだことがないわと思ったので、読んでみました。これが2011年の芥川賞受賞作。 すっごく繊細な文章。書いている人と登場人物の感受性の強さに、自分まで神経が研ぎ…

ブレイディみかこ「ジンセイハ、オンガクデアル」954冊目

「ぼくはホワイトでイエローで、ちょっとブルー」で著者を知ったので、それより前、2010年代に書かれたエッセイ集はちょっと過激で面白いです。2022年の「両手にトカレフ」で、内に秘めた激しさを見た気がしてたけど、今に始まったわけではなくて、上へ突き…

「ニューエクスプレス+ アイヌ語」953冊目

日本語教師の勉強を始めてから、ますます言語の面白さに興味が湧いてきました。とくに言語と言語の「キワ」ですね。日本語でいえば小笠原の英語と日本語が混じったクレオール言語とか、琉球語とか、このアイヌ語とか。今の琉球語やアイヌ語もたぶん、文法は…

ギャビン・ライアル「深夜プラス1」952冊目

内藤陳の「読まずに死ねるか!」を読んだら、冒険小説を愛するか彼が新宿ゴールデン街の自分の店の名前にまでした名作を読まずに死ねないと思って、読んでみました。 感想は、「かなり意外」。冒険小説って私のイメージは、車で移動するなら全速力のカーチェ…

黒川伊保子「怪獣の名はなぜガギグゲゴなのか」951冊目

「言語沼」で紹介されていたのでこちらも読んでみます。タイトルが秀逸なんだけど、怪獣の話はなかなか出てきません。先行研究がなく、感覚を科学的に分析していく本だということはわかるけど、音の分析は科学的でも、その周辺の「赤ちゃんはおっぱいを食べ…

劉 慈欣「老神介護」950冊目

劉 慈欣の初期の中編集、第二弾。第一弾「流浪地球」は3月に読んで面白かったけど、こちらもずっしりと面白かったです。 大昔に地球を発展させた神々は年老いて愚かかつ脆弱になり、地球を終の棲家と考えてやってきた。でも一家に一人の謎の介護老人は受け入…

白石昌則「帰ってきた生協の白石さん」949冊目

帰ってきたんだ!ていうか今までどうしてたんだろう、あの素晴らしい生協の白石さん。最初の本のころは大学生協の職員で、その後「日本生活協同組合連合会」に転職したようだけど、親会社への転籍にちょっと近い?この辺のことはそれほど詳しく書かれてない…

都甲幸治「教養としてのアメリカ短編小説」948冊目

面白かった。 大学が英文学科だったので、アメリカの短編小説を「購読」の授業でたっぷり読まされたものでした。どれもけっこう暗くて、ちょっとホラーみたいな作品もあったな、人間って不思議だなと思ったりしながら、辞書を引き引きけっこう夢中になって読…

内藤陳「読まずに死ねるか!」947冊目

これ最高ですね。内藤陳は私の中では”性格俳優”だけど、デビューはコメディアンなんですね。みょうにニヒルでありながら笑われて喜ぶ感じがちょっと洒脱なおじさんでした。 彼が「プレイボーイ」誌に1980年代初頭に連載していたコラムに、彼が敬愛するAF(ア…

堀元見・水野太貴「言語オタクが友だちに700日間語り続けて引きずり込んだ言語沼」946冊目

YouTubeの「ゆる言語学ラジオ」を何度も聞いてたので面白さを確信してたけど、やっぱり面白かった。YouTubeっぽく、”言いよどみ”や脱線も含めてテキストに落としたのがよかったですね。(YouTubeと違って各章ちゃんとオチらしいものがあるけど) いつも聞き…

阿津川辰巳「透明人間は密室に潜む」945冊目

面白かった。よくできた、丁寧にメンテされているテーマパークみたいに、楽しさや面白さがこれでもかと詰め込まれています。この人の作品にはこういうワクワク感がある。小さい頃に見ていた推理ドラマや怪奇小説のような、理屈では説明できないこの感じ。こ…

紀藤正樹「マインド・コントロール」944冊目

カルトと呼ばれる団体に非常に詳しい紀藤弁護士が、「マインドコントロールってなあに?」という一般の人の疑問にやさしく丁寧に答える良書です。 (つまり、マインド・コントロールの地獄とか抜け出す苦しみみたいなディープなホラーエンタメ的なコンテンツ…