金出武雄「素人のように考え、玄人として実行する」

これも課題図書。カーネギーメロン大学の教授を長年務めた日本人である著者が、アメリカでの研究生活の中から体得した知恵をスパっと、痛快に、日本にいる日本人に対して伝授する本です。「知恵」ですから、特定の何かの研究や経験が元になっているけどその内容は普遍的。ためになる本です。

感想としては、おもしろい!でもこの本を課題にして何を学ばせようというのかしら?シラバスを見ても、取り上げている回はない。論理的なものの組み立て方や、世界に通用するコミュニケーション力に目覚めさせようという、一般的なsuggestionなのかな。

若い頃は小説以外の本は読まなかったし、人から薦められたり書評を見て本を買いに行くことなんてなかった。最近は課題ですよと与えられた本を素直に読んで喜んだりしてる。私も丸くなったもんだ。

生きてく上で学んだほうがいいことがあるとしたら、やっぱり、人と人とのインターフェイスだろうなぁ。自分一人で、自分以外の世界すべてより偉い人なんて絶対いないんだから、外の世界からいいものをたくさんもらって、身につけられる人が一番豊かだと思う。そのためには、できるだけ外に心を開いて素直になりたい、と思う。奇しくも、この本の随所でそういうことを言っていると感じた。

以下読書メモ。

P91 平面を直線に切って組み合わせただけの三次元物体からなる世界を考え、折り紙世界と名づけた。Ultra mobile PCのコードネーム「Origami」の語源はこれだったりして?

P154 「最近自由作文で人の能力を見ようとする向きがあるが、本当の実力というのは問題解決能力である。」Totally agreeだ。

P253 よい論文は推理小説に似ている。起承転結の「起」で事件が起きる/研究課題が示される。「承」の悪い例では、「どうして一人の人が東京と大阪に同時にいるのかと思っていたら、実は一卵性双生児がいたという。ふたごがいるなら最初からそう書け」。まったくだ!今年の「安楽椅子探偵」のあまりに意表を突きすぎた結末で荒れたファンサイトのことを思い出して、苦笑。

P271 「プレゼンのスライドはパッと見てわかってはいけない。スライドを見るだけでわかるようにすると、みんなスライドだけ読むようになるから。」・・・その通り。PowerPoint使うとバカになる、と断言した某教授になんて言ってやろうかと手ぐすね引いてる私ですが、このマンガを見るとどうやら真実のようです。・・・は置いといて、プレゼンってのもそろそろ、pptの便利さに頼ってるだけではもう全然だめで、30分間を完璧に利用するためにLessigくらいのtheatrical effectを練ってから臨め、ってところまで来てる気がしますね。特に大事な場面では。物足りないくらいのスライドを言葉で補うというのが効果的と書いてあるけど、その通りだ。

p291 日本人は、日本は特別だと言い過ぎる。・・・去年USに1ヶ月滞在した報告で私もそう書いた。それでもつい、なにかとそういう言い訳をしそうになるので、気をつけるべし。

P312 「日本の社会では、自分が判断を下すのを恐れるあまり、点付けをして1点でも多く取れる人を優先することが多いが、そのルールの決め方自体が誰かの下した主観的判断だ」と斬り捨てる。誰も責任を取らなくていいようなルールを決めておくんだよね。そういう場面で、不愉快になったり批判したりするより、この著者みたいに冷静に分析できた方がいいと思う。

P321 アメリカでは担当者が変わるとすべて1からやり直そうとする、というのをほめている。でも、前任者の契約書の細かい文言をいちいちいじり倒す法務は、周りからみると迷惑だと思う。

P325 タイトルでいうと、素直に考えて仕事を楽しむことは得意だけど、玄人のように行動できないから私はただの人だ。と思う。ま、こんなもんか。

ではまた。