製造業にかならず必要となる「金型」は、熟練工が手作業でしっくりと仕上げることでしかいいものが作れないと言われてきました。ミクロン単位の計測や極限までの自動化を実現して、従来45日かかっていた金型作成を45時間にまで短縮してしまった・・・ということで最近評判なのが、この株式会社インクスという会社です。でこの本は、その社長がみずから、"プロセス・イノベーション"成功への道のりを書いた本。
何をどうしたから何が短縮できたのかが、本を読んだらやっとわかりました。
1.工程からあらゆる「待ち時間」を取り去って短縮
2.3D CADを駆使して、データでの受け渡しを可能にしたので短縮
この2つが大きいみたいです。でも、工程から「あそび」をなくせば、ちょっとでも遅れる工程が出たときに収拾がつかなくなる。当初はそれで結局納期が遅れて迷惑をかけたこともあったようです。3D CADも、当たり前だけど2D CADに慣れたエンジニアが習得するのにまず時間も手間もかかる。そう簡単な道のりではなかったみたいです。
この人の意見に100%共感できるわけではないけど、ひとつの改善に成功した人の実話として、読む価値はあると思う。
p28 「日本はいま、今後も残すべき技能と、ITを駆使した新しい生産システムに落とし込める技能とを冷静に分類すべきときにきている。」で、落とし込めるものはどんどん彼らの金型のようにシステム化することによって、日本の強みを活かせるという。
p31 日本はエネルギーの80%、食料の60%を輸入に頼っているから、加工産業みたいなのをやらないと食っていけない、と書いてある。でもそれだけしか方法がないわけではなくて、エネルギーと食料の自給率を上げることも一つのオプションだ。そうしながら、日本の加工技術を輸出せずに内需に充ててもいいし、他の産業を推進することもできる。
ITは道具でしかない、という点は共感する。
あえて反論を見つける方向で読むと、この本は一貫して「製造業」、「消費者の移り変わりやすい嗜好に合わせて開発期間を短縮」ありきで書かれていて、この2点の判断の是非を問う部分が少ない。一企業の社長が自社のことを考えながら書いたからそうなるんだろうな。私は無責任な読者なので、インクスが栄えようがどうしようがあんまり興味はない。日本全体がうるおったり、みんなが幸せになればそれでいいのだ。だから、流行に左右される消費者にコビを売るようなことはゴールにしたくないなぁ。
p138 「いまは、自分が本当に欲しいものを探しても、妥協せざるを得ない。中途半端なモジュール化でお茶を濁す程度である。(中略)個別の大ヒット商品を超える、自分だけの"モノ"、それを提供できる仕組みに発展するはずである。」
ここがこの本のキモだとしたら、この人の考えは私と同じです。
「みんなと違うものを持ちたい」消費者の嗜好に答えるには、やっぱり、1つだけのものを作るのがベストだと思うんだ・・・カスタムメイドっていうか。
どこまでをオーダーメイドにするかは、100%ではやっていけないから、たとえば携帯なら機能は世代ごとに全部同じでもいいの。デザインが違えば、「人と違う感」は出せるだろうから。今は携帯にシールを貼ったりカバーをかぶせたりしてるけど、携帯そのもののデザインをもちょっと根本的にいじれる仕組みがあってもいいのかもしれない。
金型まで作り直さなければならないほどの変化が、本当に消費者が求めるものなのかどうか。そういう高い目線で考えることも大切だと思う。
p143 人間の労働を機械化・自動化すれば、中国で作って人件費を安くする必要もなく、日本で安く製造できる。
うん。私が知りたいのは、彼らが考えた「どうしても人の判断や人の手が必要な部分」ってのは具体的にどういうところか、ということ。彼らのプロセスイノベーションはどのくらい他の業種に生かせるのか。それから、何が失敗だったか。・・・意外な、つまらないところに、成功の蔭の失敗ってのが隠れてることがある。
来年の自分の研究のテーマを決める上で、なにかヒントがありそうなんだよなぁ。もちょっと他の会社のことも勉強してみます。