本田宗一郎「夢を力に」49

言わずと知れた自動車のホンダの創業者、本田宗一郎が1962年に日経新聞に連載した「私の履歴書」(そんな昔からあったんだ!)に、その後1973年に社長を退任するまでの仕事をつづった第二部、「本田宗一郎語録」第三部を加えて作った本。

出版されたのは2001年と新しいんだけど、昭和37年当時の血気盛んな時期の本人の筆による「私の履歴書」も新鮮で、時代の雰囲気を生き生きと伝えています。

彼について書かれたものはたくさんありますが、「ひらめきの設計図」とかと違って、やんちゃぶりがそのまま書かれてる点で、この本は秀逸!神出鬼没に作業場に現れては、気に入らないことがあると定規でもスパナでも投げつけるとか、芸者遊びが好きでさんざっぱら遊び倒してたら、ある日生意気なことを言う芸者がいたので酔った勢いで2階の窓から投げ落としたら、電線に引っかかって止まったおかげで命拾いをした・・・とか。某先生から聞いたような生々しいエピソードがたくさん載ってます。

私の履歴書」を書いたのは、ホンダが初めて4輪車を発売した、56歳のとき。当時すでにホンダ創業1946年)から16年ではあるけど、創業時40歳だから年齢のわりに会社が若い。それに、ずいぶん早く半生記を書いてしまった、ような気がします。でも社長を引退した1973年は創業後27年なので、ビルゲイツは自分が作った会社を本田宗一郎より長くやっている(1975-2006、すでに31年)という計算です。ビルもパートタイムになったら「私の履歴書」書いてくれないかなぁ。

以下、例によって備忘録です。

第1部「私の履歴書

p79 1951年頃のはなし。輸出振興と合わせて輸入防止を政府に頼むための民間業者の会合があったが、彼は参加しなかった。「安易な道を選ぶことに強い反発を感じたからである。これはわれわれがあくまで技術によって解決すべき問題である。日本の技術がすぐれて製品が良質であるなら、だれも外国品を輸入しようとは思わない。また黙っていても輸出は増加するはずだ。」その通りだな。マーケティングの巧拙も含めて。最近の規制緩和とかの政策をみてても、日本のみんながもうかって幸せに暮らすっていう最終的な目的を忘れてるような気がする。お上にすぐ頼るのもダメだし、お上が意味不明な施策をするのもやめたほうがいいと思う。

p104 「私がやった仕事で本当に成功したものは、全体のわずか1%にすぎないということも言っておきたい。99%は失敗の連続であった。」同じことをソニーの人も言ってたなぁ。破壊的なイノベーション=ハチャメチャで荒削りで超おもしろいこと、は、大量の失敗あってのことなんだろうな。失敗を恐れちゃいけない。

第2部「履歴書その後」

あとは本田氏ではなく日経の名和修という人が書いてるんだけど、この辺から「本田宗一郎の右腕」藤澤武夫氏にも焦点を当てます。この人ずいぶんよく調べていて、ホンダって会社の日々のようすが目に浮かぶようです。前半の独白とこの部分の客観的記述を比較して読むとおもしろい。

p156 「本田が千両役者なら、藤澤は名演出家だった(のちの副社長、川島喜八郎の言葉)」ホンダの場合藤澤氏がいなければここまで大きくなることはなかった、と断言できそうな、経営の天才です。この人の著書『松明は自分の手で』から何度も引用してあって、こっちの本もぜひ読んでみたいと思います。

注:残念ながら絶版。Amazonマーケットプレイスでも見つかりません~。でもほかの著書『経営に終わりはない』は入手可能なので、こっちを読んでみよう。

てか、私もミニ宗一郎に出会って、プチ藤澤になりたいなぁ。

p188 ホンダは研究者のインセンティブを常に大切にしている。

・・・ときどきこれを不思議に思う。Googleにしろアルモニコス・エリジオンにしろ、どこの会社にも研究者以外の社員もいるでしょ?営業、マーケティング、生産、サポート、総務、経理、etc。「売り上げよりものづくりに力を入れる」と言いたいのかもしれないけど、研究よりもっと日の目を見ない部署の人たちは、そういうのを聞いてやる気が出ると思う?事務員とかパートのおばさんとかも含めて、全員を大切にする企業がいいな、私は。この点については、労働者階級出身で、パートの人にも健康保険加入をみとめたマイケル・デルの方が好きだ。

p197 「アメリカの消費者は国籍、企業の大小を問わず良い製品であるなら先入観抜きで評価し、購入する。」そう、これが日本が日本の人の実力を生かして国力を高められない原因。商品だけじゃないよ。日本古来の一流企業の方が従来(今は知らないけど)新入社員の家柄とか出自にうるさくて、外国人や学歴の低い人に冷たい。女性の活用も遅れがち。で、そういう人たちが外資系企業に流れる。税金も知的財産権も外国がもっていく。

・・・日本古来のえらい人たち、もうちょっとちゃんと国力ってことを考えた方がいいよ。ほんとに。

p199 藤澤氏の英断。本田・藤澤の同時退任後のホンダの経営を憂慮し、あとを引き継ぐ4人の取締役が取締役業務に専念してホンダの将来をじっくり検討できるように、ライン業務からはずした。つまり、ふつうは「取締役xx本部長」ってついてるでしょ。そのxx本部長の部分をはずしたんだって。なかなかできないよね!こういうところがこの人は天才的だと思う。

第3部 「本田宗一郎語録」

p222 芸術に対する考え方が、共感できます。いい悪い=好き嫌いなんだよね。すべての人に受け入れられるアートがあるわけない。

p237 消費者はしろうとだから、何がほしいかというアンケートをとってもいい製品は絶対作れない、という。自分たちの方がものづくりのプロなんだから、消費者が何を求めているかを自分たちで考えるのだ、って。そうなんだよね。顧客志向ってのは、ばかみたいにただ顧客に聞くことでは実現できないんだな。

・・・というわけで、読んでて元気が出てきて、おもしろい仕事をするゾ!という気にさせる、すばらしい本でした。すぐ読めるし、オススメです。A+です。