アンドリュー・S・グローブ「インテル戦略転換」57

1996年に書かれた本。

1章が短いので、電車の中なんかでも読みやすいです。内容も無駄がなくてよくまとまってます。

最初は、10年も前の本をいまさら・・・という気持ちもちょっとあったけど、いい本ですねぇ。(しかしこの人、コンテナ船による輸送とかクレイコンピュータとか、例が古いなぁ・・・)

何がいいかというと、主として自分の成功を語る本が多いなかで、この本に限っては失敗や苦境を中心にして書かれている点。もう一点は、経営者だけじゃなくて中間管理職や一般社員が会社のために何をすべきかについても、明確なメッセージがあるという点。こういう本読むのはたいがいが中間管理職以下だから、たいがいはわかったようなわからないような気持ちで読み終わるもんですから。

第1章では、インテルが小さな半導体会社からいつのまにか世界一の企業になっていて、ペンティアム浮動小数点ユニットのバグの事件で初めてそれを思い知ることが書かれています。M社の独禁法訴訟も同じような状況だったのではないかと、、、

それをp53では「モーフィングのように業界勢力図が描き変わっていた」と表現しています。モーフィングというのは、CMなんかで使われている、顔のうち鼻、口、と変わっていって気づいたら別の人の顔になっていた・・という表現に使われる手法です。

p62 失敗しないためのルールとして、1.むやみに差別化せず標準を重視する、2.産業界の大きな変化から目を背けるな、3.安価で売り、かつ利益を生むため、先に生産量を想定するというプライシングを行う。という3点をあげています。

1については、メモリとかビデオ方式とかで自社標準を作りたがる日本の某社に教えてあげたい・・・。3については、ミスミやマブチモーターのプライシングのことを思い出しました。

p63 業界の「縦割り」「横割り」という表現が使われていますが、前者はいわゆる垂直統合、後者は水平統合とかモジュール化と言われるものですね。グローブ氏は「すべてにおいて一流になるより1つで一流になるほうが簡単」だから横割り化していくのは当然だと言います。その通りですね。

p70 「MSのソフトは安くてまぁまぁだからいいんだ」とあります。アメリカ人の間では昔からそう思われてたってことですね。日本人は「安くてまぁまぁなもの」を、最初はしょうがないと我慢しても、バージョンが上がると寛容度がどんどん低くなるんですよ。仕上げだけでも日本でもっとやるようにすればいいのになぁ・・・

でも浮動小数点ユニットみたいな一般人には一生関係なさそうなものでも、アメリカ人が大騒ぎした、、ということは、やっぱりマスコミの影響力なのでしょうか。

p87 1996年の時点でインターネットとソフトウェア、コンピュータ、広告についてかなり大きな懸念を持っています。この本の原題「Only the paranoid survive」のパラノイドというのは、心配症くらいの意味だそうです。たしかに心配症でなければこんな心配はしない。準備は早い方がいいし、こういう気質は重要なのでしょう。

また、こういうことを書いてあるから、10年前の本であっても読み返してみる価値がある。このときインテルがどういう戦略をとったから今どうなっているか、というリアルな検討に使えます。まさか彼も、マックに自社のチップが入ってBSDが動くようになってるとは思ってなかっただろう・・・。ネクストのこともソフトウェア企業としてがんばってるって書いてあるし。キヤノンが日本での独占権のために一億ドルも出資してたんだねぇ。これは苦い。

p168 戦略転換はスケジュール帳からも始まる。というのは、転換時には自分の生活スケジュールも仕事に合わせて変わるという意味です。わたしが今いっしょけんめお勉強してるのは客観的にみるとなんなんだろう。

<参考文献>

クリステンセンがイノベーションの第2作や第3作で、インテルのコンサルをかなりやった話を書いてるので、合わせて読むといいかも。インテルが思い切った戦略転換に成功してきたのは、そういう外部の人にすぱっと斬ってもらったからかもしれず、またそれは元をただすと会長の心配症のおかげなのかもしれません。

ほかに、先日読み終わったクスマノの「ソフトウェア企業の競争戦略」も読んでると、パーソナルコンピュータの歴史がさらによく見えてくるんじゃないかと思います。

あと、モチオさんがこれについて書いてます。第二回はこちら