文化功労先生がイチオシする、技術と歴史について考察した名著です。
1989年に出た本なので、もう古書でしか手に入りませんが、Amazonのロングテール(特に絶版の本で助かる)のおかげで、授業中にチョチョっと注文できました!
ヘゲモニーというのはドイツ語で「覇権」、つまり「技術覇権」というタイトルです。どの時代にもその時代の先端をいく技術をもつ国が存在する。そしてそれは時代によって交代する。かつて覇権をとった国は別の国に追いつかれて必ず斜陽になる。そんな話です。
わざわざ大学院行っても、ミクロ・マクロとせいぜい現在の勉強をするだけで、なかなか「技術史」までやる科目がありません。でも、歴史は繰り返すのですよ。この本を読んで改めてそう思います。人間が人間相手に思いつく戦略なんて、そう変わらないもんです。先人に学ぶという姿勢は、どんな分野でも怠ってはいけません。
クリステンセンを読んで「これから日本はどうすればいいんでしょうか?」と動揺する学生に、「かんたんだ、日本はアメリカの後を追ってるんだから、今のアメリカのようなやり方をすればいい。」同様にアメリカはその先を行ったイタリアを追うべし。・・・ただし、そう単純なことを言ってるわけじゃなくて、どう分析してどこを真似るかってのはかなり難しい部分です。それでも歴史から学ぶ視点を持とうとすることで見えてくることは多い。
という訳で感想。
全体的に:
産業スパイって昔からあったんだなぁ。てか昔は政府が海賊のようなことをしていたこともあったんだ。それが当時は普通だったから。知恵がつくってのはすごいことです。
P72 「新製品の出現は、すぐれて同一性能、異なる原料、そして安価という形をとって、先行製品を駆逐していく」・・・これは絹から綿へと移行したときの話だけど、破壊的イノベーションってやつですね。
P78 「気がついたらヘゲモン」ってのはインテルとかマイクロソフトも思い当たることがあるんだろうな。
P102 繰り返し語られる「イギリスのドイツに対する被害妄想」は、ちょっと日本人っぽくもある。こういうのをまとめて島国根性って呼ぶ人が出てくるのだろうな。
P111 ゲオポリティック=地政学=geopolitics。これが正しい用法。言葉を作ったのはドイツ人らしい。
P142 ドイツ特許法のおかげで技術が栄えた。M島先生が言ってた日本の様子と逆だ・・・
p156~ USが日本に真珠湾攻撃を仕掛けさせたと書いてある。どきどき。私はそこまではどうだかわからないけど、ひとつの攻撃を契機として100倍も200倍も大きな戦争を仕掛けるというのは、911でも実証されたのではないかと・・・。
P163 カナダに入植したフランス人がその後ニューオーリンズを建設した。なるほど、だからThe BandやNeil Youngが南部の音楽とぴったりくるんだ・・・ってチョー短絡。
P170 消費者はある程度ロイヤリティがある場合「文句」を言うが、ない場合はその代わり「退出」オプションを持つ。ふむ。これをキリンビールに当てはめてみても面白そうだ・・・。「人は本当に居酒屋で生ビールを頼むときブランドを確認しているか?」
P227 「大量生産からクラフト制へ」という意見をアメリカの研究者が言っているらしい。それってせっかくモジュール化が進んでいるものをまた垂直統合するってこと?たぶん理論的にはそれでうまくいくはずがないんだけど、クラフト制が必要な分野にもっとフォーカスを移すっていうのが正解なのかも。
戦後日本のエリートはみんな電機業界に入ったんですって。当時の花形業界だったらしい。バブルの頃の金融みたいな。その結果優秀なエンジニアがたくさん生まれたんだろうか。ホンダは非エリートの宗一郎が作ったわけだけど・・・。今もそういう風潮を作れば理系離れが防げるんだろうけど。