浜脇洋二「45歳までにあなたもトップになれる!」91

タイトルはeye-catchingですが、中身はもっと濃くて元気が出る本です。

カワサキで撤退寸前のバイク事業をUSで成功させ、日本でBMWをメジャーなブランドとして打ちたて、DECでリストラと黒字展開を成功させた経験を、パワフルにポジティブに語ります。経営者が書いた本の中には、理屈っぽいものも暗いものもあるけど、この本に書いてある著者のポリシーは単純明快で読んでて気持ちいいです。即断即決、前向きでためらわない。身近にいたら圧倒されたかもしれないけど。「印象に残ったページ」につけた付箋の数も最大級、落ち込んだら読み直す本として手元に置いとこうと思います。

すぐれたリーダーに必要な(能力と別に)人間的資質は、相手を包みこむ「明るさとあたたかさ」じゃないかと思う。それをオーラと呼ぶ人もいるし、人間愛と呼ぶ人もいるだろう。

以下、例によって印象にのこったページ。長いよ。:

p73「俺はニューヨークステーキを頼んだのに、君はロブスターを持ってきたな」・・・部下に、アメリカ人が好むバイクをリサーチさせたところ、ユニークな「500cc単気筒」が本命だという。でもユニークすぎても市場には受け入れられない。ちょうど手ごろなステーキでなくロブスターを持ってきた・・・というわけ。「これは私のビジネスの勘だ」。このカンってのが何より重要だと、学校の教授陣もいいます。しかも、身に付けようとしてつくもんじゃない、とも。でも、努力がムダになるわけじゃなくて、おそらく自分で町に出てたくさん商品を見て人を見て、懐を痛めて買い物をして、商品を出して失敗して・・・といった経験をコツコツ積み重ねて行くものなのでしょう。ニューヨークステーキが何か、選べるようになりたい・・・。

p75カワサキのバイクの広告をUSで出すのに、地元の代理店の男がノーマン・ロックウェルの画集を持ってきた。「日本のオートバイ3社は製品を作るだけで、マーケティングの戦略がない。アメリカ人の心をつかむにはオートバイでドライブする歓び、つまりグッド・タイムを売り込むべきではないか」。それで「カワサキ・レッツ・ザ・グッド・タイム・ロール」というキャンペーンをやって当たった。ディーラーの名前も「グッド・タイム・センター」として、年間アウトドア・スポーツ用品を取り扱った(p78)。

p81 カワサキはUSで現地に密着していたので、オイルショックで需要が落ち込むことをすぐに察知し、大量生産を早く打ち切ったので、不良在庫を抱えずに済んだ。これを著者は「スロー・イン、ファスト・アウト」と呼び、不況こそがチャンスだといいます。もっとはっきり言うと、自分さえしっかりしてれば、他が勝手に負けてくれるということですね。「意思決定シミュレーション」で、よくわかったけど、自分だけ勝つのが難しいんだよなぁ~。

p86 日本企業は資本の論理でなく従業員の論理で動く。「・・・従業員の仕事を確保するためなら、利益を犠牲にしてでもシェアを取るという集団エゴイズムである。」と一刀両断。これはYH戦争と呼ばれた2社の壮烈なシェア争いと、その後欧米のメーカーがあらかた地上から抹殺されてしまったという事件についていったもの。「資本主義は投資に対するリターン、つまり利益を追求するシステムだ。・・・そこに日本企業は、利益より雇用の確保というまったく違うルールで割り込んだのである。」これは厳しいけど事実で、当該日本企業は結局自分たちを滅ぼし、雇用も確保できなくなることに気づいてなかった、といえます。

p101 カワサキで、USで好きなように現地化をしていたら、やがて日本から管理の手が伸びてきた。「泣かず飛ばずのニューヨーク生活」の頃にBMWからヘッドハンティングがやってきた。そのとき、日本企業がUS進出する際だけでなく、どの国の企業でも海外拠点を作るときの苦労というのは同じではないかと感じるようになった。日本→海外の逆を経験して、「異文化経営の奥を極めることに、私の好奇心は抑えようもなく高まっていった。」異文化経営の苦労を認めてくれたのは日本企業でなくドイツの人だった。・・・そして転職。

p109 BMWは日本進出に際して数十億をかけて日本の代理店を買収したが、社長も専務も適当な人材が社内にいないという理由で、社外から登用した。「こうした思い切った人事の背景には、日本のマーケットは日本人に任せるというBMWの姿勢だけではなく、基本的にはビジネスは実績のあるプロに任せるという国際的な常識に基づいていると考えた方がいいだろう。」この文章の前半までは誰でも言うことだけど、後半のほうが大事で、すべてのことに応用がきくと思う。

「日本人は実際的でありドイツ人は論理的である」というのは的を射ているという。「フィロソフィー、ビジョン、ミッション」をはっきりと定めて、定めた言葉を大切にする。根本をきちんとすることで会社の動きがブレなくなる。

p136 「売りすぎないという逆転の発想」。

・類似品を出してシェアを取ろうとして価格競争に陥ってはいけない。会社の目的はシェアではなく利益。「我々は最大であることを望まない。最上であれば充分だ」。ドイツのトップ1%のシェアだけでは利益が薄いが、世界中のマーケットでトップ1%を取ればいい。(ニッチトップ戦略に似てるなぁ。)

・1988年に西ドイツの通産相と会ったときに「西ドイツは日本と同じ貿易黒字国だが、なぜ日本のように貿易摩擦を引き起こさないのか」と尋ねたら「日本は輸出の40%がアメリカ向けだが、西ドイツは10%だけだから」と答えた。共存共栄が産業の発展には重要・・・公取が談合をうるさく言い過ぎるのは、本末転倒だと思うんだよなぁ。私は。

BMWの生産能力は上限に近づきつつあった。「それ以上売れたらどうする」と本社幹部に尋ねたら「台数を増やさず、もう1ランク上の車を作る」と答えた。

p150 BMWがローン金利を下げたキャンペーンは有名。以前はディーラーは車の値段を下げて金利18%とかで儲けてた。これを9.5%に落とし、その分値引きをしなくても売れるよう、広告も打って説得に回った。・・・正論なんだけど、それを実現するために高飛車に出てしまうと、ぜったいうまくいかないよな。そこで必要なのが努力と情熱なのだろうな。しかしありえね~金利!しかも、なんか違うところで稼ごうなんて、携帯の本体価格を下げて通話料で稼ぐのと同じ、日本独自の本末転倒ビジネスだ~。

p160 現地で成功すると、こんどは本社からの介入が入り、現地主義が薄れて行く・・・というカワサキと同じことがBMWにも起こった。ドイツ語で本社と折衝できる人に後を譲るときと決めて、絶頂期に信頼できるドイツ人専務を社長に立てて自分は会長へ。・・・社長が会長になるというのは、一般に「勇退」なのかな。ネガティブでないことは確かな気がする。美しい引き際ができる人って多くはないけど(自分以外の要因もあるし)、あやかりたいもんです。

p185 話は飛んでDEC。希望退職も終わり、マネジメント上の問題を片付け、アルファサーバーの出荷が始まった頃に、従業員減30%に対して売上高10%増、円高もあって1年で黒字転換。これは数字を見るとその通り。現場の社員には痛みもあっただろうけど、倒産させずにいい条件で売却するための布石は整っていったわけだな。

p187 他社の話題だけどメモ。ハロゲン・ランプメーカーのフェニックス電機は1995年にいちど倒産し、破産管財人の要請でやってきた新社長は「ISO9001を取ろう」を目標にたてた。ISOは実は手段で、その途上で組織の問題をあぶりだそうとした。その次の目標はERP、その次は再上場。・・・わかりやすく美しい目標って、元気を出させると思います。

p195 DECの売却まで。資産の売却を済ませてバランスシート上20億ドルのキャッシュがあった。「後年になってわかったことだが、それはDECが高値で売れるよう身軽にしておくための複線だった」。「DECのコスト構成は

、大雑把にいうと粗利が40%を切っているのに、販売・一般管理費が30%、開発費が10%もあった。採算割れは当然だった。「後年DECは株価が値上がりした頃を見計らい、・・・DEC1株につきコンパック株2という有利な条件で株式を交換し、従業員に酬いた。」・・・大変な状況だと思うけど、トップ(US)が会社に執着がなく、最初から売る気でポジティブにリストラを進めた場合、こうなるのね。ここまでは良かったかもしれないけど、DEC有利な条件で買ったコンパックの財政は、これによって逼迫していかなかったんだろうか。HPのコンパック合併のほうは、どうだったんだろう。

p202から「日本の会社、5つの不思議」

1.なぜ差別化にこだわらないのか

2.なぜプロを雇わないのか

日本で「成果主義」が熱心に導入されているが、「・・・終身雇用制がまだ残り、人材の流動性が少ない環境では、それは必ず残酷な仕打ちになる。・・・企業が自分の一生を託すものではなく、あくまで出入り自由なところであることが前提となっているからである。」確かにそうだ。

3.なぜ大きさばかり追求するのか

家電メーカーは何もかも売ろうとする。「ドイツの企業は、そんなことをすれば儲からないことをよく知っている。」これってどの経営書にも必ず書いてあるんだよな。正論ってあるんだから、素直に従うべきじゃないかと思う・・・。

4.なぜ借金をするのか

会社の目的は銀行に金利を払うことではない、株主に配当することだ。アメリカではオーナーと経営者を分ける。・・・以前ちゃんと法律を勉強しようと思って、会社法の本を読んだとき、書いてあることと日本の企業の実際があまりにも乖離してて、最初は書いてあることが理解できなかった。(株式会社の目的は株主に配当することだって、ちゃんと書いてあるのよ。で、社員ってのは基本的に従業員のことではなくて出資者を意味する言葉なんだな)こういうのを理解しないまま歴史ある実践にこだわるから、ある日買われちゃったりするのよ。

5.なぜ会社を売らないのか

ここまで言われると、愛社精神はないのか、みたいな気持ちにもなってきますが、そういう意味ではなくて、「日本の会社はなぜ倒産寸前になってから売りに出るんだ。」という話です。永遠に伸び続けると夢ばかりみないで、引き際を考えとけってことではないかと。「会社にはサイクルがある。創業時代、成長時代、安定時代、それぞれに時代ごとに経営者の役割が違う。従ってピッチャー交代が必要になる。」これはイノベーター社長とMBA社長という話と一致しますね。

人は必ず死ぬ。会社にも永遠はない。(生き続けてる会社の大半は、事業内容は以前とまったく違っていることも多い。)という当たり前のことを常に考えていられるか・・・というのは重要だと思うなぁ。p233ではこうも書いてる。「リーダーの落とし穴は慢心である。たまたま成功すると、いつまでもリーダーを続けたがる。・・・自分の役割を知り、賞味期限を自覚することがトップの重要な条件だ。同時に、次期トップの役割と能力を見定めた上で、後継者を推薦することも忘れてはならない。」

p231 「奇しくも、日本企業もアメリカ企業も人間尊重を社是としているところが多い。しかし、文言は同じだが、意味が違う。日本企業では終身雇用のことを言い、アメリカ企業では個性尊重のことを言う。」なるほど。

以上です。