伊丹敬之・松島茂・橘川武郎「産業集積の本質」112

ひととおりビジネスのお勉強をすると、その次にもう少し視野を広げて、企業を群として見ることに興味がでてきます。産業集積というのは、中小企業政策を考える立場の人たちに必要となる、地理的・時間的な広がりをもつ研究領域なので、ビジネススクールを卒業して一息ついた人には新しいいい刺激です。

古くは播州尾州の繊維工業から、愛知県豊田市のような大企業を中心とした地域、東京の城南地区の工場群、海外では北イタリアの手工業やシリコンバレーと、例をあげればきりがないくらいです。中島飛行機の流れをくむ富士重工、奈良の靴下工場を束ねたタビオヤマハからスピンアウトした企業が多数存在する浜松・・・さまざまな集積の形態が存在し、どれもお互いに”似ていない”というのが私の印象です。

この本は、1冊全体を費やして、さまざまな産業集積のすべてに通じる共通の論理を導き出そうとしているわけではありません。どちらかというと、この分野に興味をもった10人の研究者がそれぞれの関心に従って行った研究をまとめたものです。産業集積の本質がわかる本ではなく、わかろうとした10人の研究者の軌跡。

いままでのところでうっすら見えてきたのは、決して、なんとなく産業集積が起こって成功することはないということ。誰か、あるいは何か大きな出来事によって企業群がいっせいに共通のひとつの方向性をもったときに集積が始まり、たまたま、あるいはうまく求心力を保つことができない限り、あっという間に離散してしまうものだということです。

今までのビジネスのお勉強とは違う目の付けどころが必要だ、と思う。ある大学とその卒業生を中心に起こる産業集積なんてのは、チャイナタウンや日本人街とかの生成と同種のものだという気がするんですよ。・・・って感じで、これからもこの分野を追及するつもり。

勉強を続ける理由は、学校に払った金の元を取りたいからではなくて、知的好奇心を抑えられないからですね。面白い!と思えるものがある限り、読書日記も続きます・・・。