エヴァン・I・シュルツ「発明家たちの思考回路」139

教授からの借り物です。いつ借りたか思い出せない、、、

この本は「発明家」と呼ばれるビジョナリーをたくさんピックアップして、彼らの発明のひらめきがどうやって生まれたか、どうやってそれを育てていったか、ということを、分析というより逸話として収集したかんじの本です。ちなみに序文をマイクロソフトを辞めて特許ライセンス会社をやっているネイサン・ミルボルドが書いています。(ものづくり系の弁理士さんが、この会社のこと悪く言ってたっけなぁ)

西洋式プラグマティズムがむんむんしてる本です。未完成というか、まだネタでしかない発明をたくさん紹介しているんだけど、どうもそのうち多くが失敗しそうな気がする。10年後に読んだら、ぴんと来ない本になっているかもしれません。

たとえば。p58-

薬の飲み忘れを防ぐには?と聞かれてMBA保持者は患者に1日3回メールを送るというが、それは人間の習性を無視している、という。で、飲むたびに当たりが出るスロットマシンを考えて特許を出願したという。私は、ここで着目すべき人間の習性ってのは、射幸心ではなくて「薬を飲まなくていいようになりたい」ところの方だと思うんだが・・・。貼りっぱなしで1週間効くプラスター状の薬とかさ。

p192

ある発明家は、5分あれば目を閉じて空想の世界に入り、あっと言う間に月の表面にも立てるし、自由の女神の目の穴から外を見たりできる、という。この本に出てくる発明家は、また一様に楽天家。どんだけ失敗しても借金をしても、毎日けろっとして新しいアイデアをどんどん試していく。・・・この辺リアルで面白いです。ドクター中松とか、初台の発明喫茶(とうとう一度も入らないままだった)とか思いだします。

p243

特許ライセンス訴訟は、この本の中では美談。1982年以前は、発明家が特許をとっても州によって裁判の結果が異なり、大きな範囲で行使するのは無理だった。でもこの年に連邦巡回控訴裁判所が設けられ、全米の特許訴訟を一手に扱うことになった、のですって。そして、電話を通じたサービス関連のビジネスモデル特許で大金持ちになった人の話が続きます。この辺は歴史が見えてきて勉強になります。

p293

出た、私のキライな話:『貧しい国の人たちを理解させるため、学生たちをサハラ砂漠へ連れて行き、戻ってきてから1日2ドルで1週間暮らしてみなさいと言ってみるが、誰もできないのだ』

その2ドルとこの2ドルの価値はたぶん全然違ってて、あっちの2ドルの方がずっと豊かなはず。2ドルの価値を1日の食費に満たないところまで落としてしまっている自分たちの社会の問題点も、おなじ次元で考えてみてほしい・・・とか思う。だいいち何を持って貧しいというのか。

発明が認められて有名に!というのは、確かにステキです。私たちが個人による特許訴訟になんとなく反感を持つのは私たちが企業の人間だから(あと、特許ゴロみたいなのが増えてるから、もあるけど)だ。発明はすごい、かっこいい、楽しい、というのは忘れかけてた事実。その部分のポジティブさが、この本のいいところだな。

以上。