トム・モリス「アリストテレスがGMを経営したら」143

先生のご推薦で、ちょと前(1998年)の本をAmazonで買った。どの先生だったっけなぁ・・・。

Amazonの感想はマチマチだったけど、読んでみたらなかなかよかった。

アリストテレスGMの社長に収まって、朝「おはよう!」から始まり、役員会とか取引先との交渉とかをシミュレーションしながら、読んでるうちに哲学的な経営がわかる・・・・っていうような本を想像したでしょ?「社長・アリストテレス島耕作、的に)」とかさ。違います。ビジネス本ではなくて、まるっきり哲学書ですね。いかに生きるべきか=哲学における過去の偉人の言葉、さまざまな考え方をどのように経営一般に適用できるか、ということを丁寧に説明しています。アリストテレスは2,3回しか出てこないし、GMは一度も出てきません。でも、むしろそれでよかった。いーかげんビジネスの勉強ばっかりちょっと食傷気味なので、かえって新鮮でした。

以下、印象に残った部分。

p42「1つのものは、それが持つ善の力に相応する悪の力を持っている。ほとんどの場合、その力をどのように使うかは私たち自身の責任である」

小さい頃、昔話に出てくる神様の中に、いい神様と悪い神様がいるということが理解できなかった。子供を殺して食べる鬼子母神ざくろを与えて祀ったとか。神様は立派だからあがめたてまつるもの、だけじゃなくて、ご機嫌を取っておかないと悪に戻ってしまうから、そうならないようにお供え物をするのか。

なぜそんなパワーを持っているものが悪に傾くのか、なぜそれを止められないのか、理解できなかった。今もあんまり理解できてないけど・・・。ただ、日本の民話やギリシャ神話にはあっても、ユダヤキリスト教系にはそういうのはないのかと思ってたので、それ系の人がこういう項目を設けるのが面白いと思う。

p44「残忍な人々は、自分は率直な人間の典型だと自称する。-テネシー・ウィリアムズ

こわ~。これいるよね。思いやりのなさを正直と称する。反省しないから変わらない。

p82~第5章「ビジネスは美をめざす」

まずは黒字を目指す。収支が合って、いろいろなことばうまくいくようになると、もっと美しく、と思うようになるのかな。美しいは主観だからいろいろあると思うけど。p94「みながそれぞれに自分の知っている芸術をやるがよい。 - アリストファネス

p163ビジネスにはルールが必要である。だが、「第一に、すべての状況をカバーするルールなど決して存在しない。第二に、例外や抜け穴を探そうとする姿勢を助長するおそれがある。第三に、ルールどうしが矛盾する可能性がある。第四に、ルールには解釈が必要である。」

倫理のルールの背後にあるのが「英知」だという。英知を身に付けるにはどうすればいいか。

p183第1の鍵:すぐれた人たちとのネットワークを築く。・・・これは大事で、仕事を離れて同窓会に出たり学校に行ったりして、そういうボランティア精神とか自己研鑽の輪の中に入るのは、大変というよりいい気分なのだ。人に違いがあるかはわからないけど、すぐれた志の中にいるということ。

第2の鍵:些細なことを大切にせよ。・・・これは耳が痛い・・・昨日も今日も、大切なことをおろそかにしてるし、思いやりのない行為をたくさんしてる。こういう本を読むとだんだんツラくなってくる。

第3の鍵:知的想像力を培うこと。・・・「自分で自分を欺くことほど簡単なことはない。人は一般に、自分が望んでいることだけを真実だと信じてしまうのである。 - デモステネス」私は人に対しては隠された真実を暴いて嫌われる方だけど、自分をだますことはやはり日常的にやってると思う。うーむ、ツライ。

p248 古代における真の善が今、ニセモノによって置き換えられている。

英知→抜け目なさ。尊厳→見栄え。真理→便宜。美→刺激。善→快適。人格→個性。名誉→人気。尊敬→畏怖。うーん、これも説得力があるのだ。私が学校で書いたレポートなんてほとんど後者のような気がする。ツライ。

p253 「教育の究極の目的とは、あらゆる事物に関する熟達した識別能力である。すなわち、善と悪を区別し、本物と偽物を区別し、悪や偽物よりも善や本物を好む力である。 - サミュエル・ジョンソン

折しも、幽霊みたいな絵ばかり(注:私のイメージ)描いた日本画菱田春草を高く評価したことによって、希代の目利き岡倉天心東京芸大の学長の座を追われた、という話を読んだところ。目利きの才能はぜったいに通信教育やE-learningでは伝達できない。

以上。