宮永博史「理系の企画力!」171

ここではおなじみ、宮永氏の新著です。今回は祥伝社新書、喫茶店コーヒー1杯で読める分量。でもでも中身は新ネタのテンコ盛り、かつ十分掘り下げてまとめられているので、今までにも増してお得感たっぷりの1冊。

まだまだ新しい本が書けそうなこの著者のすごいところは、いい仕事をしている人たちと知り合う力、話を聞くそばからエッセンスを抽出して脳内データベースに蓄積し、適当なタイミングで分析をかけて抽象化する力…なのかな、と思います。百メートル走のペースでマラソンを走るような多忙な生活の中で、こんな本を新たにかけてしまうというのは、ちょっとスーパーです。

さて内容について。

昨日美容室で髪を切ってたら、いつもの美容師さんが、海外のバカンス地で日本人はたった一週間しか休まないのかと笑われたそうな。で、ヨーロッパの人が長く休むのにいい製品や流行をたくさん生み出すのはなぜか、という話になりました。この本の「第1則」の章に出てくる「ぶらぶら社員」の話を読んでて、その話を思い出しました。「ぶらぶら社員」については太田氏のこの本(注:自費出版なんで流通には乗ってないかも)がネタ元なのですが、1年間本来の業務につかずにぶらぶらしながら新製品のアイデアを探す、というアサインメントのことです。

人は同じ環境の中で気持ちを切り替えろと言われても、簡単にできない。会社生活の日常を中断することは、目に見えない肉体的精神的変化を人に与えるんじゃないか…。たとえば3週間の休暇は、1年間のぶらぶら社員よりは短いけど、完全に普段と違う生活を送るには十分かも。少なくとも、休日に仕事ばっかりしてないで普段とまったく違うことをすることは大切だ、と思えます。

第4則で「技術ロードマップの危険性」に触れてる箇所で、「ムーアの法則という”経験則”」という表現を使ってます。経験則というのは、過去の半導体の集積度を計算すると確かに1年半で倍になっている、という意味で正確な表現だと思います。法則なんかじゃありません。これは他社の人が言った目標をなぜか業界一団となって掲げて研究開発を続けるという、世にも不思議な現象。なんで守るんだろう?これが独禁法に触れなくて、生き残りをかけた談合がどうして触れるのか?・・・とか、私にはわからないことがたくさんあるのですが、そういう技術ロードマップを忠実に守ることに慣れているハードウェアメーカーにとっては、マイクロソフトが予定通りに次のバージョンを出すことが半導体集積度と同じくらい当然なことに思えてたんだろうな、と思いました。ハードウェアとソフトウェアの違いとか、そもそもロードマップをどうして守るのかとか、価格破壊が進んだ今はいろんなファクターを考慮せざるを得なくなってると思いますが。

それにしても、この章で鍛造と鋳造の違いを「餅とパン」に例えてるのは秀逸!!混ぜて焼いただけのパン=鋳造、杵で叩いてコシを強くした餅=鍛造。これ、流行らせてほしい。以上。