佐藤正午「身の上話」209

へー。面白かった。やな話だけどね。(←読直後感)

ミステリーとしての評価がかなり高いらしい。

著者の定番になったかんじの「ある日突然、さして理由もなくふっと失踪する」ストーリーの最新版なのですが、出かけちゃう理由の自然さがアップしてます。

地方の書店に勤務している若い女性が、営業で毎月やってくる東京の出版社の男(妻子持ち)とつきあいはじめてしまい、歯医者に行くと嘘をついてこの男を見送りに出たのに、ふっと一緒に飛行機に乗って行ってしまう。出がけに同僚に頼まれて買った宝くじが当たってしまったのでさらに事態は複雑に・・・・。

荒唐無稽といえば荒唐無稽、犯罪につぐ犯罪が、加害者側の必然性がそれほど描かれないまま連続して起こるのですが、そんなことはどうでもいい。小説ってのは文字をすなおに追って読んで、面白いと思えるかどうかが最大のポイントで、その意味でこの小説は最近のこの著者の作品の中でもすなおに楽しめたと思います。

最大の特徴は、語り手(=著者?とどうしても思ってしまう)の性格や考え方がほとんど出てこないで、静かに距離を置いた「語り部」に徹することに成功しているところ、ではないかと思います。

ものたりないところがあるとすれば、語り口が淡々と一貫しているので、読み終わって「ああ、すごいおなか一杯!」ってほどカロリーが高くないところ。これは欠点ではないですけどね。

なんか、いよいよ作家としての佳境に差し掛かってきたなぁという気がします。もっともっとどんどん書いて!以上。