村松秀「論文捏造」210

NHKのBSドキュメンタリーとして2004年~2005年に放送された「史上空前の論文捏造」という番組のディレクターが、番組を本にしたもの。元がターゲットの広いTVというメディアだからか、中学生くらいでも理解できそうな、平易な言葉でわかりやすく書かれています。番組内容に、取材の経緯や番組でカバーできなかった話をプラスして、さらに、TVではおそらく前面に出さなかったであろう著者本人の考えを加えてあります。

論文捏造といえば、韓国のヒトES細胞で捏造を行った大学教授の事件が記憶に新しいけれど、その話ではありません。この本で取り上げているのは、ベル研で有機化合物の高温超電導の論文を2000年~2002年の間に次々に発表し、ノーベル賞にもっとも近い科学者と呼ばれたヤン・ヘンドリック・シェーンです。

「あの」ベル研の新進気鋭の研究者で、ネイチャーやサイエンスにどかどか論文が載る人のデータが全部(とまでは書いてませんが)でっち上げ(とまでは言ってませんが)だったとは。

・・・信じてしまう人々の心理、検証せずに発表を許してしまうチームリーダーや研究所の事情、などをひとつひとつ調査し、遠路USやヨーロッパ諸国へ出かけて行って自宅のドアをたたき、しぶとく食い下がって手に入れた事実を積み重ねていっています。

確かめて、確かめて、事実に近づいていく・・・というジャーナリスト魂が発揮されていて、なかなか実感のともなう内容になっているので、このテーマに興味のある人なら一度は読んでみると良いと思います。

読み終わって思うのは、これは決して一人、一団体、一研究分野の問題ではなくて、人がいるところどこにでも起こりうる問題だし、筆者が言う「科学研究の発表の仕組みは古すぎて、現在の学際的な研究を十分精査できるようになっていない」というのもなるほどと思います。じゃあどうすればいいか・・・

いろいろ考えたけど、ロクなアイデアが出てこなかったので、これは今後の課題ということで。

お勧め度はかなり高い本です。以上。