志水辰夫「行きずりの街」214

「余暇に軽く読めるミステリー」のつもりで読んだら面白かった。よく書けている。

とはいっても、うだつのあがらない中年男+超いい女との純愛+唐突に巻き込まれた凶悪事件+唐突なのにふつうの人なのに大活躍、という定石を踏んでいるのは事実。

土曜ワイド劇場と同じで、水戸黄門大岡越前とも同じで、人は(私も)定石を求めてTVの電源を入れる、本屋の店頭に立つ。それで得られるのは、自分を投影した大冒険活劇であり、俺は命をかけて小さきもののために戦い、血まみれで顔は赤黒くふくれあがっているが、愛する女は俺を見て涙を流して抱きついてくるのだ。・・・という設定に、私もなんだか入り込んで(女じゃなく男のほうに)カタルシスを得る。すごい夢を見て目覚めたような、さわやかな疲れ。

そのお膳立てがどれくらい真に迫ってくるか、というのがエンターテイメント小説ではかられる力量なのだ。と思う。

でも疲れるなぁ、殴られたり監禁されたりばっかりで。ほんとのふつーの人なら、何度か死んでるんじゃないかな・・。

以上。