中島徳至「ほんとうのエコカーをつくろう」283

既存の自動車を電気自動車に改造して販売する事業をやっていたベンチャー企業が、郵便事業会社から契約を打ち切られて破産した、という事件を覚えていますか?これは2011年3月4日に自己破産を申請したその「ゼロスポーツ」の創業者社長である中島氏が、一番希望に燃えていた2010年11月に書いた本です。郵便事業会社から1000台の電気自動車の発注を受けていたのですが、契約を解除されたのが1月、その後解決策を探すのを断念して全社員を解雇したのが3月1日、そして4日に破産。3月はじめにはネットのあちこちで議論されていましたが、その直後の大震災で、あっという間にネットからこの話題は消えました。

ゼロスポーツは自動車部品の販売、オリジナル部品の開発製造などを経て、電気自動車の製造販売を始め、その分野では先進的な技術も持っていたようです。私が初めて買った車、日産マーチはちょうど100万円でしたが、最新最速のノートPCが25万という時代に、あれほどよくできたコンピューターが、しかも車つきで100万円とは安い!と妙な感慨をもったのを覚えています。…それくらい、今の車は電子制御されているってことです。しかしコンピュータの世界の人間から見ると、熱や振動や揮発物など、あれほど苛酷な稼働環境はありません。さらに、ハイブリッド車となると電気自動車+ガソリン車+発電機の機能をすべて制御しなければならないわけで、そこまで複雑なシステムになると、いくら垂直統合型で販売後一切いじらないとしても、かなりの危険性をクリアしなければならないことになります。

一方、中島氏によると、ガソリンを使わない電気自動車は構造が簡単で、ガソリン車とは全く別ものだそうです。そう聞いて、子ども用のゴーカートとかゴルフ場のカートのようなものかなと思いました。あれは極端に単純な例かもしれませんが。…とにかくガソリンという揮発物を積まなければ爆発炎上のリスクはかなり減るし、エンジンがいらなくてモーターだけなのでシステムはシンプルです。あとはバッテリーの問題なのかな…。ノートPCやスマートフォン用のバッテリーは1年もたたずに容量半分になっちゃうし、重量もかなりあるので。えーと、システムの詳細はともかく、電気自動車はエンジンが心臓の従来のクルマではなく、走るためのモーターを制御する大きな電気器具である。そのため、今までの自動車業界とはまったく違う業界のしくみや社会インフラが生まれてくる。…と私はこの本で理解しました。

そこまで理解した上で、この会社の成長と破産をどう見ればいいのか?

ネットでは、郵便事業会社の横暴だとか、既存の自動車業界の圧力だとか、さまざまな意見が飛び交っていました。このベンチャーには注文に応える実力がなかった、と言う人もいました。どちらの意見も極端でした。実のところ中島氏から直接話を伺う機会もあったのですが、コチラ側からの情報だけなので、見えそうで見えないことが多く、いったい本当のところ何が起こったのか?ということが全体としてはつかめません。本当のことが洗いざらい表に出てくる日は来るのでしょうか…自分から暴きにいくしかないんでしょうか。5年くらいは待たないと誰も本当のことは話してくれないでしょうか。

日本にベンチャーを育てる実効のあるシステムがないのは事実で、地位を確立した会社や人が、自分より若く小さいものを育てたり取り込んだりするより、自己保身に走ることによってつぶしてしまうことがあるのも事実だと思います。

でも、あきらめてほしくないな…。自分としても、日本はダメだ、シリコンバレーで改めて起業したほうがいい、みたいな逃げの結論に走ってしまいたくないです。ううむ。むむむ…と歯切れ悪く今日はおわります。以上。