「色を奏で いのちを紡ぐ 染織家 志村ふくみ・洋子の世界」334

2011年作品。

色って何だろう?

それは光がものに当たって反射し、目を通じて脳で感知された反応です。

つまり「色」というものがあるわけではありません。

多分人間一人ひとりが感知している、あるひとつのものの色は、みんな少しずつ違う。

違う生き物が感知している色は、もっと違う。

「かたち」や「時間」が誰にとっても同じなのに対して、色ってのはそれらと全く違う「感覚」なのです。

「草木染め」というと、すべて灰色を混ぜたような色で、なにか年寄りめいていて、枯れて、生命力の弱いもののような印象がありますが、要は草木の血液の色を糸に移したものなんだな、とこの映画を見て思いました。静かにだけど、植物も生きています。糸にその色を移すために植物を殺す場面から、この映画は始まります。

志村ふくみという86歳の現役染織工芸家と、その娘で同じく染織家の志村洋子のことを描いたドキュメンタリーであり、おそらく学習目的で使われる映画なのですが、絵画や染織、あるいは光や色に関心のある人にとっては、とても新しい刺激のある作品ではないかと思います。

ふくみさんは、色はいろであり、人間の中のいろを自分の肉体で表出するか、それとも糸に染めるか、という問題でしかなく、中にいろがなければ染めなどできない、というようなことを言っています。86歳にしてなんと艶やかな。

女性の色は赤だけど、赤という色はどこにもない。若い娘の薄桃色は紅花の花びらを煮出して作る。燃えるような朱色は高野山の槇の木の皮から出たけれど、山を下りてしまうと同じ木からもう茶色しか出ない。藍の色は新月に仕込むと満月の頃にいい色になる。…化学式で書けない、天然の生物のいとなみの多様さが面白いです。

インタビュー、昔からの写真、工房での作業、作品といった映像の合間に入る山や川や木々の映像がすばらしく美しいです。手元に置いておいて、謙虚な気持ちになりたいときに見たいと思います。

と書いても、これを読んでこの作品を買う人はいないと思うけど、図書館にあるかもしれません。発売元は紀伊国屋書店。ぜひ探して見てみてください。

教養映画ということで制作者のクレジットがたいがいの通販サイトには出てませんが、リスペクトを込めてここに記載します。

演出 中村裕

プロデューサー 塩崎健太 深水真紀子

撮影 牛島悟郎

編集 小倉康徳 橋本拓哉

演出補 松本智恵

特記事項としては、2011年キネマ旬報ベストテンの「文化映画」第2位の作品です。

以上。