「千住博の美術の授業 絵を描く悦び」282冊目

たまたま軽井沢の「千住博美術館」に行く予定があって、人に薦められたので読んでみました。

もともと私も日本画の岩絵具の風合いを愛する人間だし、「日曜美術館」で「ウォーターフォール」を見てから一度本物を見たいと思ってました。

実を言うと、本物の「ウォーターフォール」は期待が大きかったからか特に驚きはなかったんだけど、ひとしずく、飛沫のひとつぶの無駄がなさがよくわかりました。

で、帰ってから読み始めたこの本は、期待してなかった分感動が大きいです。絵を描くことを生業にしようとするための覚悟について考え抜いて、後に続く人たちに伝えるために真剣に書かれた本です。

私は子供の頃に絵を描くのが大好きだったんだけど、絵では食っていけないと思って大学受験のときに絵筆を捨てた人間で、年をとってから純粋な楽しみのために再び絵筆を取ったところ、まったく描けなくてがっかりしました。なぜ描けないかということをその後考えるに、描く対象に迫っていく好奇心とか、対象を好きになり、自分の

ものにするほどの熱い気持ちがないからなんだということに気づきました。絵はうまく描きたいから描くんじゃなくて、描きたくてたまらないから描くものなんです、当たり前だけど。で、それを一生続けて、それでご飯を食べて行こうという人が、どれほど真剣に取り組むべきかという本当のことを著者は書ききってくれました。

この姿勢は、文章の書き方を指南する佐藤正午村田喜代子とも通じます。製造業にだって通じます。一つのことを、わき目も振らずに、全精力をかけて、色気を捨てて、打ち込む。

嬉しいのは、この本を読みながら、モノをじっくり見てみて、また描いてみたいなぁと思えたことです。・・・描けるかなぁ?(笑顔)