武田百合子「犬が星見た」291冊目

実に痛快で面白い、感性のままに記された、ソ連(当時)〜北欧の旅行メモ、でした。

エッセイと呼ぶにはあまりにも箇条書き。

旅に出るときに持って行く本は、旅行記にしています。

自分の行き先とまったく違う場所でも、なんとなくしっくりときて、いい気分で読めるので。

この本はたまたま以前友達から「古本で買ったら面白かったので、あげる。読んだら捨てていいよ」といってもらったもの。さっそく次の旅行に携えて行きましたが、意外にボリュームがあり、読み終わったのは戻ってきてからとなりました。

武田泰淳は著名な小説家、武田百合子はその妻だと言われれば「ああ、あの」と思うけど、夫のほうの作品もひとつも読んだことはありません。妻が書いたこのエッセイの中の泰淳氏は、外国では空いばりで気の小さい、日本のおじちゃんです。百合子さんのことを「ポチ」などと呼んで愛でています。ポチはそれを受けて、思ったまま感じたままをメモっていきます。彼女のこどものような、少女のような感受性が愉快です。

泰淳氏も、同行した竹内氏も、銭高老人も、この本が発売されたときにはすでに亡く、私がこの本を読んでいるときにとっくに百合子さんも亡く、天国のエッセイのようなのですが、それでもやっぱり旅のもつ切ないような懐かしいような楽しみを満喫させてくれる秀作に間違いありません。

この本、次は誰にあげようかな。