本谷有希子「ぬるい毒」359冊目

この人の作品に出てくるのは、”こじらせ女子”っていうんでしょうか。素直じゃなくて、他人との距離がとれずに、どんどんドツボにはまっていって、はまったままになってしまう強烈なネガティブさ。

でも、他の人の作品なら、そういう主人公は男にモテないものだけど、この人の主人公はみんな可愛くて男好きがする。”モテる”というのとは違うんだよね、利用されるけど大事にはされない。

 この本で主人公「熊田さん」は、学生時代は”かわいいのにダサい”女の子で、クラスメイトのこともちゃんと覚えていないくらい周囲との関係が希薄。暇つぶしに彼女をからかって遊ぼうぜ、という元同級生たちに囲まれたり、リーダー格のわりと腹黒い他校のモテ男が、さらに踏み込んで彼女から金銭をせしめようと画策する。けっこう怖いですね、この男。どこの学校や会社にもいる、いじめのリーダーです。

 この人の作品の中で、彼女たちは最後に、飛び出す。彼女たちには、相手を見抜く賢さがあって、騙されているんじゃなくてずっと観察していたのだ。(というのが、我慢を続けてきた自分への言い訳に聞こえないこともない。)ずっと調子を合わせてきただけなんだけど、このままでは本当に自分がダメになると自覚して、胸の内をぶちまけてその場を後にする。

 「腑抜けども」は、そういう状況をとても強烈なモチーフをちりばめて描いている分面白かったけど、この本はもっとストレート。単純に騙されて、本音をぶちまけて出て行った。漫画をこそこそ描く必要もない。

爆発力は弱いけど、たまっている鬱屈もこちらのほうが少ない。こっちのほうが現実に近い。

 主人公に自分を映す人も多いんだろうな。大概の人は、特にブサイクでも特別美人でもなくて、20歳そこそこならたいがいまあまあ可愛い。隙があれば若い男がどんどん寄ってくる。彼氏がいないのが問題というより、便利にされているんじゃないかと悩むことのほうが多い・・・って人もけっこういそう。

 この先どういう作品を書いていくのかな、この人は。気になります。