浅生鴨「アグニオン」422冊目

Twitterで有名なNHKPR1号さんがNHKを退職して作家になった。それがこの人で、彼の初めての小説がこれです。
twitterは在職中も今もフォローしてるし、彼のやけにナイーブで正直な感性がとても面白いといつも思ってたので、いつか読もうと思ってたんだけど、いつまでたっても図書館に入らないので買って読むことにしました。

意外なことにSFだった。「中の人などいない」を読んでも、とってもヒューマンで血が通わないものなど嫌いって印象だったので、設定はきっと現実に近いものなんだろうと勝手に思ってた。もちろん、この人の作品であるからには、はみ出し者の、感情の起伏の激しい青年と、一本気な少年が主人公(※ダブル主人公のパラレルストーリーなのです、村上春樹作品的に)。

面白かったよ。けど、造語による熟語がいっぱい出てきて、全部カタカナのふりがなが振ってある、という小説を読むのは最近ちょっと疲れているので、できればそうでない方がありがたかった。あとね、すごく特徴的なのが、二人のヒーローがめちゃくちゃアンチヒーローで非力なの。パラレルストーリーのうち、地底での発掘作業員(”モグラ”)から宇宙への仕事へと下克上を果たそうとするユジーン君は、のっけから挫折して宇宙に行きそびれる。そして悪者の手に落ちて現実世界での生命を絶たれてしまう。その後なんらかの形で復活するとはいえ、この挫折感は大きい。
もう一人の主役、特殊技能を持って生まれた子供ヌー君も、常に虐げられてほぼ厭世的。作者の中にある挫折感や悲しい世界観が反映されてるってことなのかな?

希望を失わない物語だと思うけど、この中の世界で生きていくのはとっても厳しくて、いろんな覚悟が必要。
でも、そういう物語だからこそ、安易なカタルシスがない分、私もがんばろう!という単純な勇気をもらえた気がします。