長年にわたって多少でも本を読みつづけてきた人にはたまらない、読書のゾワゾワやドキドキやは〜~っ!がガッツリと味わえる、歯ごたえのある作品でした。この人の本読むの初めてだけど、すごく達者で自信にあふれていますね。私と同年代くらいだけど、才能があって、かつ、ずっと文章を磨きつづけてきた人の至る境地ってすごいんだなぁ、と感動しています。
この本はメタ構造になってて、「三月は深き紅の淵を」という、書名と同じ名前の幻の本を探し求める物語などが4部構成で書かれています。1つ目の章は本探し。2つ目の章は著者探し。3つ目は本との関係は薄い、とても不幸な物語で、4つ目は作家自身がこの本を書きながら書き進めるエッセイのような形をとっています。この4つ目は最初どうかなと思ったんだけど、とても達者な著者なので、ちゃんと納得感のあるものになっていました。
昔読んだボルヘスの「砂の本」というのが、メタ構造の小説の典型だと思うのですが、あれには度肝を抜かれました。本の中の物語と現実との境目がわからなくなるストーリーは、それほどの没頭感をもたらす圧倒的な筆力がなければ書けません。さすが「このミス」受賞作。この調子で乱読を続ける所存です。