山下澄人「しんせかい」438冊目

写真を先に見たからか、ずいぶん無骨なごっついオッサンだな、文章もおっさんっぽいなと思いながら読んでたのに、ある時点で不器用な少年が書いた文章にしか見えなくなった。

このおっさんのことだから、19歳のときも”紅顔の美少年”じゃなくておっさんっぽい無口な少年だったんだろう。当時から多感ではなくて、いま思い出しても感情という部分が思い出せないのだろう。ただ自分の外にある人間や馬や畑仕事のことはカメラで焼き付けたように再現できる。とは言っても31年間のうちに、丸太の建物が朽ち果てるように、記憶も何かに置き換えられたり傷んできたりしている。

たいして意味のない地元での生活が、意味のわからない寒い荒野での生活に置き換えられただけ。
それを思い返す自分に安易な感傷などあるわけもない。
そういう小説。ハードボイルドというジャンルの一つなんだろうか。

感動はしなかったけどなんとなく面白かった・・・というのは、感動しなければならない場に置かれることが多すぎる、ネットでも「2ページ目で必ず泣ける」みたいなものばかり流れてくる昨今、富良野だから倉本聰だからひれ伏さなければならないわけじゃない、泣かない男がいてもいいんだ、というだけでも、なんとなくホッとするからでしょうか。

芥川賞の選考委員の人たちも、それぞれめいめい好き勝手な感想を言ってて面白い。絶対ほめないだろうなぁと思った村上龍がやっぱりほめてなかったし。

タイトルの「しんせかい」、関西の人には大阪の「新世界」が何一つ新しいところのない、極めて戦後的な古臭い町だということは当たり前で、もともと悪い冗談みたいな名前なんだけど、自分が向かった北海道の新天地を表すのにそのひらがな表記を使ったことは、関西の19歳の少年らしい皮肉っぽいギャグなんでしょうかね。そこだけ、主人公の彼にしては素直じゃなくて可愛くないな、と違和感を感じました。