小林エリカ「マダム・キュリーと朝食を」562冊目

ふむ、興味深い小説です。

理屈と史実とファンタジーを、猫と少女が別々に、軽やかに、飛び回る。重層的で、感覚的に理解しづらい人もいると思うけど、私はするっと入れました。

この間テレビで加藤登紀子とこの著者との脱・原発対談(「SWITH×Interview」)を見て、面白そうだなと思って読んでみたのですが、確かに、やわらかい表現の中に非常に強い反核の意思が詰まっています。ファンタジーなのに史実や化学についての記述が正確。こんなふうに、いわば学際的に、軽やかに難しいことを理解するのって、新鮮。そのやり方がとても面白い。とても、高度な少女マンガ的。

歴史をたどるのに、その時代は祖母が母を身ごもった頃で、この時代は自分が生まれたころで…と、母系家族を当てはめて考えるのです。社会に出ないで家にずっといる女性たちのような、地に足の着いた歴史認識なんですよね。小林エリカさんはきっと人の言うことを聞かない人なんだろう。自分で咀嚼してちゃんと理解するまで時間をかける人だと思う。(私もそうだ)

すごく好き!とか、私と合う!という感覚ではないんだけど、興味深い作家さんです。

この人の場合、大きな賞を取るために表現を大げさにしたり、感動を深める努力をしたり、しないほうがいい気がする。これからもずっと、誰かに評価されるためでなく、自分の中身が話したがっていることを書き続けてほしいです。うん。