川越宗一「熱源」564冊目

面白かった。すごい力作。アイヌの人たちが主役で時代は明治なんて、設定が斬新!と思いながら、三分の二くらいまで、まるきりフィクションだと思って読んでたのに、事実にもとづく小説だったなんて!という驚きも大きい。これ、「坂の上の雲」みたいに何回かに分けて、しっかり作りこんでドラマ化してほしい。

後から考えれば、そういえば南極探検隊に樺太の犬を連れて行った話は昔聞いたことがあったし、そもそもシベリアはロシアの流刑地だった。でも、ポーランド独立の祖となった人の兄弟が樺太で服役して、アイヌ文化を研究してアイヌと結婚していたこととか、アイヌが犬の係として南極探検隊にいたこととか、目からうろこが落ちるような「そうか!そうだったんだ!」が多すぎて、頭がくらくらしてきます。事実ほどすごいものはないですね、たまたま私が知らないだけで。市井の人の大冒険って、市井の私たちの胸の中のなにかを刺激しますね。それを著者は「熱源」と呼んだのか。

凍り付いた自然の中に、人々の中に、人々を駆り立てる「熱源」がある。「石光真清」の手記もすごかったけどこの本もすごい。リサーチや構成にどれほどの時間と手数がかかったか…。堂々の直木賞ですね。

数年前にユジノサハリンスクという、樺太(サハリン)南端の町に行ったら、がらんとして何もない、きれいな町でした。ロシアっぽさも日本っぽさもアイヌやギリヤークを思わせるものも何もない。そのつるんとした表面を掘り下げて掘り下げて、つながりを見つけていくのもまた「熱源」のなせるわざなんだろうな…。