木村友祐「幼な子の聖戦」597冊目

きっとどこかのブックレビューを見て読もうと思ったんだな。人気の本は予約を入れてから手に入るまでの間に、借りた理由を忘れてる。

この本は私が読みたがるタイプの本じゃないなーと冒頭で気づきます。だって無差別大量傷害殺人だもん。誰を刺したかも本人が意識してないから語られない。それから小説は彼の動機形成の数か月を描きます。知恵も力もやる気もない、親の力だけでやってきた男が、最初から浮上してないけどさらに転落して最悪の破壊に至るみちすじ。

著者は露悪的な人なのかと思ったけど、同じ本に収められているもう一遍を読んだらちょっと考えが変わった。2つ目の中編は、若い女性が事務系の仕事からビルのガラス拭きの仕事に憧れて転職し、”社会の底辺”っぽい人たちの中でどんどん自分の芯を強くしていく、読後感のいい作品。きっとこの作家は、うだつの上がらない青年が起こした犯罪や、町で見かけたガラス拭きの若い女性を見て、「なぜ?」という気持ちをふくらまさずにいられなかったんじゃないかな、と思ったりする。

中心人物に入り込んで書く力があるから、作家が乗り移った人物に対する印象が作家に対する印象だと思い込んでしまう。筆力の高い人だと思います。 

幼な子の聖戦

幼な子の聖戦

  • 作者:木村 友祐
  • 発売日: 2020/01/24
  • メディア: 単行本