チャールズ・ブコウスキー「死をポケットに入れて」644冊目

ブコウスキードキュメンタリー映画をたまたま流れで見たら、酔っぱらいで競馬好きだけど、どうもこの人は好きかもしれないと思ったので、作品を読んでみました。詩人で小説家でもあるけど、これは日記というか日々のエッセイです。

やっぱりなんか好きだわ。50歳で勤めをやめて物書き専業になり、このエッセイを書いていたのは71歳くらいの時期なので、なにかに追われるということはなく、競馬のある日は競馬に通い、いろいろな昔のことを思い出しては日記に書き、妻や猫や近所の人のことをたまには少し書いたりして過ごしています。規則正しい生活ではないけど、文章はきれいなんですよ。読みやすくきれいに流れるし、彼の考えや感覚、伝えたいことがよく見える。…比較する人は少ないかもしれないけど、昔から愛読している、競輪を愛する専業作家の佐藤正午に似ているところがあります。彼も文章の達人であり、他の作家の作品のすぐれた読み手。違うところがあるとすれば、ブコウスキーMacを使って1度で文章を仕上げるけど、佐藤正午は推敲の人(と言われている)。まあどこが似てようが違っていようが、どうでもいいことで、私はどちらの人の書いたものも、読むのが好きで、読むといい気分になるということですね。

世間的には、競輪や競馬にうつつを抜かすことや、創作で食っていくことはろくでもないことなんだろうか。そうかもしれないけど、彼らの書くもの、彼らの中にあるまっすぐな価値観の物差しはすごくしっかりしてる。何も持たずに会社の偉い人や政治家になる人は見習いたくない。自分の物差しをしっかり背中に隠し持っている人は、どこに行って何をしても、あるいはどこにも行かずに身の回りのことや過去のことだけ思っていても、なにかを吹聴して回っている人より確実なことを言うのだ。

死をポケットに入れて (河出文庫)