三島由紀夫「暁の寺(豊饒の海3)」648冊目

4部作のうち一番長い「奔馬」を克服した後は、だいぶ気が楽。「奔馬」は長さだけでなく神風的な”純粋”、”正義”の重厚さで読んでる者がエネルギーを吸い取られるんじゃないかという迫力があったけど、タイやインドを漫遊する「暁の寺」は少しは楽に読めます。

19歳の純粋というのは、今では「中二病」と半笑いで語られるものと同じなのかな。三次元の肉体の不純に耐えられず、悲しみだけで死んでしまうような繊細で純真な少女を夢見るような。

タイトルからして、この巻では仏門に入った聡子が登場するのかと楽しみにしていたけど、まだ登場しませんでした。妖艶な中年女性、隣人の慶子の存在は逆に大きくなっていく。ジン・ジャンは美しい南国の果実のまま消えてしまった。

第3巻が終わりに近づいてから、第4巻を読み始めたあたりが最高に面白かったな。何でこの作品で三島はノーベル賞を取らなかったんだろう、と思ってた。でも、彼自身の現実のほうが小説の中の虚構を越えてしまって、小説のほうはほとんど未完に近いものになってしまった。と感じます。つづく。