森瑤子「アイランド」654冊目

与論島に行ったときのことを思い出して読んでみる。この本はガイドブックで紹介されてたし、森瑤子は与論に別荘をもち、地元の人とも親しくしていて、今はエーゲ海ふうのタイル貼りの素敵なお墓となって与論にいつづけています。

私は同時代としては、彼女の本を読むには若すぎて、名前だけをうっすら憶えているくらいだったんだけど、何年か前に渋谷のブックカフェに行ったとき、なぜか彼女の本が目立つところにあって一冊読んだのでした。それが「デザートはあなた」。とてつもなくリッチでバブルのきつい香りがする本だけど、女性らしいロマンチックさや可愛らしさで満ちていて、不思議と「いいな」と感じました。

彼女が愛した与論島は南西諸島の島々のうち、航空路があって行きやすく、港区と同じくらいの小さな島。サンゴ礁でできているので恐ろしく海が美しくて、真っ平で徒歩で歩きとおせそうな島です。背の高い月桃やアダンのふもとの温かい暗い空気に、なにかの死が眠っているようでちょっと怖い気がするのも、南国らしさ。

その森瑤子が近未来(といっても1988年から見た2003年)の八ヶ岳や与論を舞台に、イケメンのミュージカル作家と美人エージェントやその娘の運命の出会いを描いたのがこの作品。輪廻転生がメインのきわめてロマンチックな物語だけど、設定は近未来SFで、ものを送るのに真空式シュートみたいなものを使っていたり、急ぎの連絡がファックスだったりするのは昔っぽいけど、週休3日制に移行して誰もが副業を持ち、リゾート地に第二の拠点を持っていたり、テレビ電話やリニアモーターカーを駆使してたりするあたりは、現在に近いところもあって、面白い。

なんか、言葉の端々に、「ときめき」とか「キラキラ」があって、書いてる人自身が夢見る美しい心の持ち主なんだろうなというのが伝わってくるんですよ。人や物や世界の美しさを信じている人。斜に構えたところがない人。

輪廻転生を重ねてきた運命の二人が出会う場面を、ずっと楽しみにしながら読んでいって、結果は最後の最後のおたのしみ。ほんとにこの作家は、すごくきれいな夢の中に生き続けた人、愛を信じ続けた人なんだなと思います。

今の時代の東京は否定でいっぱいになっていて、安らぎも落ち着きもなかなか感じられないけど、島に行けばロマンや優しさに出会えるのかな…なんて夢をみちゃいますね。

(1988年7月30日発行 980円)

アイランド (角川文庫)

アイランド (角川文庫)