工藤吉生「世界で一番すばらしい俺」678冊目

Twitterでどこかからこの著者の言葉が流れてきてちょっと驚愕&ドン引きして、気になってフォローして、歌集を読んでみなければと思って借りてきました。

著者の想像どおり「あとがき」から読む。どういう人なのか知りたい(下世話な好奇心)。

読むのがちょっと怖かったけど、読んでるうちにだんだん安心してくる。人って意外と普遍なんだなという気がする。痛いときは痛い。短歌って、散文詩よりエッセイより生々しくその人の心そのもの、という感じがする。

思い出したのは、最近読んだ松下竜一の若い頃の短歌だなぁ。彼が貧しい豆腐屋だった頃、取引先の10歳も年下のお嬢さんに恋をして、彼女が高校を卒業して結婚するまで、ずっと送り続けた恋の歌とか。読んでいるだけでその人になったような気持ちになる。

だからこの歌集も、読んでいると出口のない考えや感情が胸の中に湧いてきて苦しくなる。それから、自己批判をしがちな私は、自分(本当は短歌を書いたのは別人だけど)がこうなったのは、結局のところ自己肯定感が持てないからかな、とか、そのくせ人を上から見下すようなところがあるし、とか、プライドが高すぎて自己認識が理想から遠すぎて…とか、考え込んで読み休む。自分に甘く人に厳しい性格だったら、生きるのはもっと楽なんだろうか、とか。

自分も、自分の愛も、わりとどうでもいいことだと思えるようになるまではずっと苦しむんだろうな。そう思えるようになれて良かったけど、もっと若いうちにそういう境地にたどり着く方法もあったんだろうか。宗教かな。その場合、物心ついてから一度はそれと向き合うことが避けられないと思うけど。「恥」という意識の強さとか。自分に対する興味の強さとか。でもこの人は17歳のときから三十代後半までの時間を生きてきているし、私もだ。なんかそれで十分。 

世界で一番すばらしい俺

世界で一番すばらしい俺

  • 作者:工藤吉生
  • 発売日: 2020/07/20
  • メディア: 単行本