2007年に書かれた著者の初長編小説で、日本の2000年代を代表すると言われている作品。遅ればせながらテッド・チャンやケン・リュウを読み始めた日本人としては、押さえておくべき作品。
アメリカ軍に所属する暗殺者である「ぼく」が語る形になっているSFでありミステリーで、語り口の内向的なところや、知性の高さ、そのくせ世間ずれしていないところから、日本のすぐれたアニメ作品を思い起こします。違う点もたくさんあるけど、まず思い出したのは「スカイ・クロラ」。でもこの主人公はもっと深く内省的で、かつ、最初から最後まで物語を一人称で語りとおした彼には強い意志がびしっと一本通っていることを感じさせます。
ムサビを出て映像制作に携わっていたというこの著者の教養には驚かされます。博学をひけらかすような小説はだいたい「鼻持ちならない」感じがしてイヤだけど、この小説にはちっともそんな感じを受けないのが不思議。たぶん著者に、人によく思われようという気持ちがあんまりないからじゃないかな。小説を語るうえで必要だと思うことを、友だちに語るように書き続けている。これを書いてる時点で大病に悩まされていて、自分の残り時間を意識していたから、書くべきことを書かなければならないという強い意識があったんじゃないだろうか。その勢いにのまれて、夢中になって読み進めてしまいます。
主人公が考え続けているのは「意思を持って決断する死と、その決断の責任」だ。善悪ではなくて、自分のなかの倫理。
モンティ・パイソンや洋画の話が次々に出てくるのは、英訳して読まれることを意識してたのか。映像制作をやってた人だから、本当は自分で監督して映画化したかったんじゃないかな。こんなものをたったの10日で書き上げたってことは、ずっと温めていた構想をタイプするのにかかった時間ってことか。
ある意味、心の中の妄想をそのまま文章に落としたような本で、その妄想を持つ本人の魅力で読ませてる感じ。すごい内面世界を持ってる人って、その世界を持ってそのままあの世に行っちゃうんだろうか。何年後かに転生してまた書いてくれないかな、とか思ってしまうのでした。
ほかのも読んでみよう。アニメ化もされてるみたいなので、そっちも見てみなきゃ。