リンダ・グラットン/アンドリュー・スコット「ライフシフト 100年時代の人生戦略」699冊目

クローズアップ現代で取り上げられてリンダさんがインタビューに答えていたのが印象的だったので、さっそく読んでみました。

こういう本ってどうしてこう厚いんだろう…。なんとか短くする方法はないんだろうか。アメリカ人って日本の人より一般的に単刀直入で、結論から入るし話が短い、ってイメージがあるんだけど、どうして本になると文字を多用するんだろう、特に社会科学の本は。(一般論です)

この本を読み始めて「?」と思ったのは、寿命が100歳に至る時代に、なるべく長く仕事をするといっても、できることはどんどん狭まっていく。体のあちこちが痛い、目はどんどん悪くなる、歩くのが遅くなる、認知症もいつかはやってきてだんだん進行していく。その部分についてはさらっと触れてるだけなんだけど、気になるのはそこじゃないか。

人間がやっている仕事がほとんどAIにとってかわられるとか、ギグエコノミーとかシェアリングエコノミーとか、だいぶ前に聞いたような話が出てくるし。50年後に105歳の人たちがどうするかという未来の話に関連付けるには古すぎるような。

それにこの本は、高所得の人たちは皆、長時間高度な頭脳労働に従事していると、それが当然の事実のように書いてるけど、それって「ブルシット・ジョブ」で書いてることと逆に近い。高度な頭脳労働と称して、会議のための会議の準備をしたり、口頭で説明すればすむことを社内用なのに立派な資料を作ったりすることに費やしてるっていう事実は、この本では興味を持たれてない。つまり、そういう仕事に、それなりに充実感を見出せるほうの人のために書かれた本だ。

それと、この本は2016年にアメリカで書かれている未来に関する本なのに、LGBTについて一言も触れてないのが、むしろ目立つ。最近の本には必ず、もういいよというくらい書かれてるのに。低所得者層も、層として触れるだけで、この本が対象としているのはよい教育を受けられる現在中流以上の結婚した(あるいは子供を作る長年のパートナーシップを前提とした)男女の未来に限られてる。著者の視野が狭いというより、社会全体の問題は、自分のこととして捉えて研究対象とするほどの強い関心がない、って印象かな。だから、有色人種や現在低所得層の人、LGBTを自認している人や、中流の白人であっても大企業で働いていることが「ブルシット」だと思う人は、他の本も探したほうがいいのかもしれないです。

この本が日本で、「もしドラ」よろしくマンガや解説書まで発行されてるってことは、中流の安定した日本人だという自認の人が多いってことかな。(その通りだと思うけど。)