李琴峰「五つ数えれば三日月が」722冊目

彼岸花が咲く島」が面白かったので、過去の作品も読んでみます。

この本に収録された2編は、台湾から日本に留学してきた女性が日本の女性に恋をする、親密で繊細な作品。著者が自分の生活のなかで経験したり想像したことを膨らませたのかな、と感じる、若い女性の周囲数メートルくらいの狭い世界のお話です。

この人は言語感覚がすごい。日本語が、ヘタな日本語ネイティブよりずっと正確で美しい上、日本語と中国語の漢字の違いとか、いま日本語を学ぶ台湾人の言語や昔日本語を話していたけど忘れかけている台湾の老人の言語のような、”なんか変”で片付けられがちなものを、すくい上げてその違いをじっくり感じとろうとする。これほどの言語感覚をもった人はあまり見たことがないです。

私は言葉を大事にする人が好きだ。この著者も、このあと言葉の感覚をさらにふくらませて「彼岸花が咲く島」を生んだ。これからさらに広い世界に舞台が移っていくんだろうな。映画「メッセージ」の、墨を円形に吐き出すことで伝え合う言語みたいな、私には想像できない世界をどんどん作っていってほしいです。