安部公房「デンドロカカリヤ」742冊目

この本を読むことにしたきっかけは、日本語の「音声学」の授業で”「デンドロカカリヤ」はどんなアクセントで読むか?”という話があったこと。日本語の高低アクセントには法則性があるので、初めて聞く意味の分からない言葉でも、その法則に従って読むことができる。具体的には、この語はド・レ・ミで表すと「ドミミミミミレド」かな。そこを頂点にしてあとは下がる、という「アクセントの核」は2つ目の「カ」にある。ところで、その「デンドロカカリヤ」という言葉は存在するのか?と気になって、ググってこの本にたどりついた次第。

ちなみに実在する植物だそうです。和名は「ワダンノキ」。しかしこの小説のおかげで学名が意外と知られているらしい。小説では、コモン君という名前の平凡な男が、彼女とのみちゆきに失敗してだんだん植物になってしまったらしい。そういえば若い頃、安部公房の「砂の女」、「壁」、「箱男」を読んだ。

この短編集も、今読むと戦後の尖った日本映画みたいな不条理感があるシュールレアリスムで、わりと小難しい言葉、生真面目な表現が並んでいる。最近ずっと熟語や理論の説明が多い中国SFを読んでるけど、あっちには空想のひろがりがある一方安部公房には密室感しかないので、すこし疲れる。安部公房を読む年齢の旬があるとすれば、私は20歳前後だったような気がするのでした。