町田そのこ「52ヘルツのクジラたち」776冊目

なるほど。こういう物語なのね。私が「これもひとつのファンタジー」と呼ぶやつだ。細かい部分にリアリティがなくて、なんとなくもわっとした違和感を持ちながら読むんだけど、ふわふわとして不思議な高揚感がある。でも私は泣けないんだな。本物の感情が湧いてこなくて。

西加奈子(むかしの)を読んだときの感覚に似てる。日常として読んでカタルシスを得るまでのひとつの流れが見えてくる。

つきあったかもしれない大切な人を死なせた痛みが、まだ出会ったばかりで18歳とかまでまあまあ幸せに育つかどうかまったく誰も自信がない男の子に出会った時点で消えることは現実にはない。でも、消えたらいいなとみんな思って読む。だからこのカタルシスは読者にちょっと甘い。可哀そうな子どもたち自身じゃなくて、彼らが幸せになってほしいと思う人たちのための本。(大多数がそうなので、それでいいんだろう。)

それにしても最近のフィクションの中の女性の同性愛者とかトランスジェンダーの描き方って一昔前の男性のそういう人たちみたいで、なんか胸が痛む。。。