恩田陸は「蜜蜂と遠雷」で好きになって何冊か読んだ。これは「蜜蜂」後の毛色の違う新作ですね。
「蜜蜂」は音楽の天国のような物語で、この小説はその対極をいくような、何も手に入れなかった、あるいは喪失した人々の物語。というより、希望に燃える若い時期の物語に対して、少しずつ降りていく時期の物語か?自分を投影するなら、「蜜蜂」よりこっちのほうが近い。でも楽しみが減っていき、少しずつ自然な死へと降りていくことをそのまま受け入れるという生き方(死に方?)もある。わたしはだいぶ前にそちらを選んだほうだと思うので、この本は自分にとってはアナザーストーリーだ。
もしも、もしも自分が作家で、同じ記事を見たことを覚えてたらどうするだろう?当時の彼女たちを知る人たちに当たるだろうなぁ。警察に話を聞き、住んでいた部屋を訪ねるだろう。どちらか、あるいは二人とも余命の短い病気にかかっていたかもしれない。でも作者は何も深堀りせず、あくまでも目に見える表面だけをなぞった。あえて。
これを読んで不安になったり、引きずられて心が暗くなる人もいるんだろうな。もしかしたら、今の世の中にはすでにそういう不安が立ち込めているから、こういう小説の形になって現れるのかもしれない。
今はどんな作品を書いてるんだろうな。作者の作風の変化も、楽しみに見ていきたいです。