立川談四楼「ファイティング寿限無」843冊目

これも「一万円選書」の一冊。すごく面白かった。さすが落語家。テンポの緩急が絶妙で、スリルと落としどころの感覚も鋭いし、言葉の選び方にセンスが感じられる。「自分はこれを表現したい」というより、読む人のために純粋にエンターテイメントとして書いてる感じ。

ごくふつうの主人公、と思ったら、異例の昇格、まさかの勝利。でもすでに読者は自分のこととして入り込んでるから共感は終わらない。落語もボクシングも順調だ。彼が師匠や先輩たちを心から愛し、尊敬していることも、共感をよぶ。で結局、彼はどちらを選ぶのか?

そこは最初からわかってる気もするけどね。

つまり、これ自体が「新作落語」なんじゃないかな?落語家って総合プロデューサーでありパフォーマーであり監督であり音響効果さんであり・・・ ひとりで全部作り上げる商売で、そのノウハウは師匠から弟子へと受け継がれていく。落語だけじゃないのかもしれないけど、芸術って純粋だなぁ。

サクセスストーリーでもあり、立身出世物語でもある。確かにこれは少年マンガの題材としてもぴったりでした。