セーアン・スヴァイストロフ「チェスナットマン」852冊目

面白かった。翻訳もいいんだろうけど、ぐいぐい読ませる、確かな筆力のある作家だなと思います。

でもね、わたしは猟奇殺人は好かんのですよ・・・この本も、のっけから不必要に残酷な殺人があり、それに根拠を与える積年の恨みつらみが徐々に提示される、という構成。その辺に既視感があるし、理屈として成り立ってる気もするけど、人はそういう風に人を恨んだり殺したりするもんかな、という、納得できる心の動きを展開して見せてほしい、という気持ちも残ります。(アガサ・クリスティなら「非ミステリ」作品でも目が覚めるような人心の描き方をしてたなー、と思いだしてます)

本格ミステリ愛好者」からは、凶器の扱いが雑という感想が出るかもしれない。最近のバカ売れするミステリーって、最初からビジュアル重視というか、ドラマか映画にしたときの説得力とかエンタメ性を文章のときから意識してる印象がありますよね。この作者はもともと映像制作をしてた人だと聞くと納得します。

なんか、だんだん、ミステリーは本物の人間を離れて、架空の人間世界でアバターを動かしてるような感じになってきました。一方の現実世界の犯罪は、常に即物的で無計画に、けもののように行われている気がしてくる。

改めて、私が読みたいものは、こういう完璧なエンターテイメント志向ではなくて、泥臭くてご近所で起こりそうなものなのかな、とか思うのでした。