角田光代「くまちゃん」876冊目

確か「理想的本箱」という番組で紹介されてました。角田光代の本は多分1冊くらいしか読んでないけど、映画化されたものは「紙の月」「八日目の蝉」「愛がなんだ」のどれも印象に残ってて、リスペクトしてる作家です。

その作家がなぜ「くまちゃん」。気になって読んでみたら、すごくおもしろかった。ちょっと変な、というか、「まとも」に見られる自分を構築するより、確固とした個性を持ち”成功”した自分を確立することに血道をあげている女たちと、いくつになっても確固としたものを感じていない男たちの、さまざまな物語。いろんな人が出てくるような気もするし、一人の男と一人の女が、姿を変えて何度も登場するような感じもする。

そういえば自分も初めて失恋したときは(別れようと言ったのは私だけど、相手には続ける気がなかった)天地がひっくりかえるほど動転して何か月も落ち込んだ。いつも自分から言い出しているということを内心自慢に思ってた時期があった。おとなしい割になかなか不遜な性格だったけど、何度か失恋して落ち着いて、相手に合わせるようになってから全くモテなくなった。その辺の男性側の心理も、この小説を読みながら、うんうんと懐かしくうなづいてしまう。

結局長い独身生活を猫と二人で仲睦まじく暮らしていて、今がまさに今生の幸せだと思う。「男はもういいけど、いい女友だちに囲まれたい」という気持ちもあまりなくなってきた。成功したいという気持ちは私の場合、「バカにされなくなって安心したい」以上のものではなかったけど、今は生活ができれば成功でも失敗でも何でもいい。生活できていればちょっとヒマなほうがいい。幸せって猫が温かいとかお日様がまぶしいとか風がいい匂いとか・・・コーヒーがすごく美味しいとか緑がきれいとか・・・そういうことなのだ。

たまたま見た映画に感動したり、たまたま読んだ小説に気持ちを持っていかれたりするのも、そういう幸せのひとつ。面白く、かつ、読んでよかったなぁと思える作品でした。