友利昴「エセ著作権事件簿」898冊目

面白かった。刺激的だった。タイトルやデザインのテイストがトンデモ本やゴシップサイトみたいだし、文中ちょくちょく英語の四文字言葉に相当しそうな表現が出てくるけど、これはおそらく、法律書を読まない一般の人たちのための由緒正しい法律書だと思います。

私は一般人に毛が生えた程度の”知財に興味ある人”かつ”著作権に大いに関わる仕事をしている人”で、今の居場所はテレビ番組の制作側に近いところです。そこでは、裁判で争ったら勝ちそうか負けそうか?という想像を働かせることなく、規定に合致しているかどうか(※規定を定める上では裁判例はたぶん参照されてると思う)、訴えられそうか、クレームがきそうか、怖い相手かどうか、といった判断基準で作業が流れていきます。だからこの本に書かれた、身近な事件の判決の数々を見て、目に厚くかぶっていたウロコ(ホコリ?)がポロポロ落ちていくような痛快さがありました。

というのも、20年ほど前はよく訴えられる外資系の会社の法務部にいて、火事場の火の粉のように次々に降りかかってくるクレームや言いがかりや訴訟を、アメリカの強面弁護士たちと一緒にぶんぶん払いのけていたことを思い出したのです。あの頃は、お手紙にお返事も書かずに無視したり、それなりに納得感のあるクレームを一蹴したりする彼らに引いたことも多かったけど、そもそも法律っておとなのけんかを裁くために作ったもので、それを使わずにトラブルを解決、いや、回避しようとするのは【忖度】に逃げる以外の何物でもないのだわ。昔学んだことはいったい何だったんだろう、じゃなくて、せっかく学んだことを私は何で忘れようとしていたのか・・・それはムラ社会に少しでも馴染もうとしたからだけど、結果まるで馴染めてないので、自論を通しても同じだったんじゃないか。人生って、世渡りって難しい・・・

現在の立ち位置に戻って改めて考えてみると、個々の小さな判断をするとき、怒りそうな相手かどうかという点は時間や労力のコスパ上は意味のあるポイントだけど、本気で争って楽勝できそうかどうかというポイントを加味すると、心にだいぶ余裕をもって先に進める気がします。

クレームを恐れる側として仕事をしていると、受身の視点しか持ちにくいけど、この本は”逆上してしまったひとびと”の事情や状況を把握する上で非常に重要な視点を与えてくれます。過剰に敏感に、かつ攻撃的に活動するネットから大きく影響を受けて、”世論(今もあるんだろうか)”がゆがむ時代に、「ちょっと待った!」と力強くストップをかけてくれる本です。ネットの論調に乗っかって気楽に誰かを攻撃してる人たち全員、読んだ方がいいと思います。(読まないだろう、という気もするけど)